vol.02 特集テーマ「Sustainable Mobility」

持続可能な社会へ、「多様性」と「変革力」で貢献する
環境負荷低減を実現するプラスチック成形機用洗浄剤「アサクリンTM」の事例

旭化成の歴史は、「社会ニーズ解決」への意志と挑戦の積み重ねと言えます。「世界の人びとの“いのち”と“くらし”に貢献する」というグループ理念のもと、創業以来ずっと課題解決に取り組んできました。そして世界が地球規模の危機に直面している今、旭化成が向かうのは「持続可能な社会」への貢献です。本稿前半では、「持続可能な社会」実現のためにグループ全体としてどのように考え動いているのか、「サステナビリティ推進部」の徳永達彦と開澤香澄に聞きます。さらにモビリティ向けのサステナブルな製品やイノベーションの事例を、本稿後半からピックアップし、開発の背景や思いをそれぞれの担当者に聞いていきます。

▲サステナビリティ推進部 徳永達彦(左)、開澤香澄(右)

 

100年受け継がれてきたものを今に照らし合わせる

徳永「旭化成は、約100年前の創業時から世の中の課題を解決していくために事業展開してきた会社です。今の世の中に向き合ったとき、私たちの課題は『サステナビリティ』であり、『私たちは持続可能な社会のために何ができるか』が経営のミッションであると捉えています。グループミッションをより明確にするために、2011年からは『環境との共生、健康で快適な生活』というグループビジョンを加え、2019年には世界中の人々や従業員が同じ視点で見ることができるよう “Care for Earth, Care for People.”と表すようになりました。『人々が持続可能な社会で生きていくために、その前提となる地球環境や生物環境、そして人々に対して何ができるか』という意味が込められています」

多様性と変革力で「旭化成だったら何かできるんじゃないか」

開澤「旭化成の事業は、繊維や化学からスタートしているのですが、例えば高度成長期にウサギ小屋と言われた住宅環境の悪さという課題に対して、社外から技術を導入して飛び地の建材事業に参入し、更に『ヘーベルハウス』を始めるなど、時代のニーズに応じてきました。そういったことの積み重ねによって、旭化成には事業の多様性や、新しい事業を興す変革力が培われてきたと思います」

徳永「多様性や変革力があるということは、世の中がどんどん変わっているときに大事なことではないかと思っています。特にコロナになってからは『ニューノーマル』といわれるこれまでとは全く違う世界(価値観や行動様式)が生まれていますよね。ものの見方も変わってきています。旭化成は新聞の株式欄で化学の欄に載っていますが、これからは産業分類そのものが変わるかもしれません。そういうときにいろいろな見方や要素を持っていて様々な組み合わせができる、『旭化成だからこそ貢献できること』を提案していきたいです」

本当に価値のあるものを世の中に提供できているか

徳永「『持続可能な社会へ貢献していく』とともに大事なのが、『持続可能な企業価値の向上』です。それはただ『社会』と『企業』の二つのサステナビリティということではなく、世の中に本当に価値のあるものを提供できているか、ニーズを満たしているか、ということです。それが返ってくるのが『企業価値』、端的にいうと『儲け』です。事業に結びついてお客様に製品などを買っていただいて初めて利益が出て、企業価値も高まる。キャッシュが生み出されてこそ次に行ける。好循環を実現することが大事だと思っています。

LCAでCO2の削減に貢献する「環境貢献製品」をフラッグシップに

開澤「持続可能な社会に向けた旭化成の取り組みの一つとして、製造段階だけでなくお客様が使う時にも従来のものより省エネになってCO2を削減できる社内の製品を、2019年から『環境貢献製品』と認定して力を入れています。認定の検討にはLCA(Life Cycle Assessment =ライフサイクル全体での環境影響の評価)の計算の妥当性や比較対象が適切かなど、社外の第三者の視点を入れています」

環境貢献製品例

LiBセパレータ、S-SBR、改質アスファルト向けエラストマー、ザイロン、へーベルハウス、イオン交換膜法食塩電解プロセス、アクリロニトリルの製造プロセスなど



▲写真上:LiBセパレータ、写真下:イオン交換膜法食塩電解プロセス

*LiB=リチウムイオン電池のセパレータ。リチウムイオン電池は電池の部材の一つで電気自動車などに使われ、従来のガソリン車やディーゼル車に比べるとCO2の排出量が大きく削減される。リチウムイオン電池の開発者、吉野彰名誉フェローは、2019年にノーベル化学賞を受賞した。

モビリティ部門とサステナビリティ

徳永「GHGの排出量を見ても、モビリティ分野、運輸部門や自動車部門が社会全体に占める割合は大きいです。私たちの製品がいかに排出を抑えられるか。さらに今後伸びていく市場としても、モビリティ分野におけるサステナビリティは重要だと思っています。

最も注目しているのは水素です。今後世の中が水素社会に向かっていく、自動車のエネルギー原料としても水素が使われていくとなったときに、旭化成は水素の研究において創業時から続いているフロントランナーなので、培ってきた技術や知見を国や他社と協業しながら活かしていけるのではないかと思っています」

◆  ◆  ◆

事例01: アサクリンTM

内装から機能部品に至るまで、自動車のさまざまなところに使われているプラスチック。その活用範囲は、車体の軽量化やEVへの移行、塗装レスといった環境への配慮による流れによって、ますます広がってきています。種類や機能も多彩になり、より複雑な形を求められるプラスチック成形の現場をサポートするのが、旭化成のプラスチック成形機用洗浄剤「アサクリンTM」です。使うことによって、環境負荷も不良品率も減らすことができるというアサクリンについて、事業本部の佐藤禎一と橘雄介に話を聞きます。

廃棄物を減らして、お客様の製品品質を高める

橘「アサクリンはプラスチック成形機用の洗浄剤です。プラスチックを成形する現場で樹脂の色や種類を切り替える時に使っていただくと、大幅に時間を短縮でき、廃棄物と排出するCO2をぐんと減らすことができます」

佐藤「成形時に焦げや炭化異物が発生してしまった時にも、アサクリンを流すとトラブルを止めることができます。また定期的にアサクリンで成形機を洗浄していただければトラブルを予防できます。環境にかかる負荷とお客さまの製品の不良率が減り、生産効率を高め、品質の向上につながるという効能があります」

 

<ABS樹脂 黒色 → ナチュラル色 色替えでの比較例>

▲プラスチック樹脂の色を切り替えたときにアサクリンを使用しない場合(写真上)と使用した場合(写真下)の廃棄物比較例。製品にならない廃棄物の量が大幅に減少する。
※これらは評価の一例であり、性能を保証するものではありません。

 

<アサクリンを1トン使用した場合と使用しない場合の、CO2排出量比較>

▲樹脂の切り替え時に発生する廃棄物が減少することで、CO2排出量が約4分の1に削減される。
*アサクリンを使うと不良品が出る割合(不良率)も下がるので、不良品の廃棄に伴うCO2排出量も削減される。
※CO2排出量はMiLCA、IDEAの原単位データに基づき算出した。
MiLCA、IDEA:(一社)産業環境管理協会提供のLCA計算ソフトウェアおよびデータベース

 

現場のニーズと、発見したシーズを結びつけることができた

佐藤「アサクリンの開発は30年前、偶然の発見がきっかけでした。全く別の材料開発で成形テストをしていた時、開発品の中に、黒っぽい異物が成形品に多く混じってくるものがあったそうです。そこで調べてみると、成形機の中の異物を排出する効果を持っていることがわかりました。これをたまたま聞いた人が、その性質をうまく使ったら、プラスチックの製造現場でお客様の悩みを解決できるのではないかと考えたのです。当時は今ほど環境面について意識していたわけではないと思いますが、その人はお客様がプラスチック成形機の中に炭化物ができて製品に混入したり、樹脂の色や種類を切り替えるのに時間がかかったりして苦労されていることを知っていました」

▲パフォーマンスプロダクツ事業本部/アサクリン技術開発部 佐藤禎一

 

現場から発想し、現場に育てられ、現場で役に立ってほしい

橘「アサクリンは現場で生まれ、ずっと現場密着でやってきた製品です。お客様に使っていただき、ご要望をダイレクトに聞いてフィードバックし、改良を重ねて使用範囲を広げてきました。現在、海外での販売実績は77カ国。その主要地域と、国内約8000件のお客様のところに、旭化成の営業や開発チームの者が直接訪問しています。初めて使っていただくと、それまで10%を超える不良品が出ていたのが0.1%にまで下がるケースもあります。お客様から『こんな魔法のようなものがあるのか!』と感動の言葉や感謝の言葉までいただいたりすると、本当にうれしいです」

佐藤「より良いものを世の中に出していって、いろいろなところで役立ってもらいたいという気持ちは、やはり取り組むうえで大きな力になりますね」

 

今後のビジョン「さらなる環境貢献追求」「マーケット創造の継続と進化」「DX推進」

橘「今後のビジョンは3つあります。1つ目は、さらなる環境貢献の追求。さらにレベルを上げて工夫していかなければいけないと感じています。例えば、もっとCO2の排出量の少ない材料を使って作れないか。性能をアップしてお客様の廃棄物量を減らせないか。廃棄物は減らすだけでなく、何かに生まれ変わって使えるようなアップサイクルの仕組みができないだろうかなど。性能と価格という今まで訴求してきた二軸とは全く異なる評価軸でアピールできる何かを作ってイノベーションを起こしたいです。

▲パフォーマンスプロダクツ事業本部/アサクリン営業部 橘雄介

2つ目は、マーケットの創造を継続的に進化させること。海外でまだ使われていないところに普及させていくだけでなく、すでに普及している国でも新しいマーケットを創っていきます。世の中の動きを捉えて、先回りしたものを作りたい。例えば5Gが流行れば『プラスチックはこういう風に変わるだろう』とか『今までにないマーケットが生まれるはず』――ということを考え、そこに対して私たちが提案できるものを用意しておきたいと思っています。

3つ目が、DXの推進です。グローバルに数万社いらっしゃるお客様に質の高いサービスや情報をご提供したいと思ったら、やはりデジタルマーケティングやAIを使った取り組みもしていかないといけません。情報のデジタル化の施策は本年度である程度完了するので、デジタル情報を生かして事業を進化させていくことに、今後取り組んでいきます」

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