vol.04 特集テーマ 音マネジメント

音を最適にマネジメントすれば、車はもっと楽しくなる
〜エレクトロニクスで“アクティブ”&高機能材料で“パッシブ”の両ソリューション〜

“人の感性に訴えかけること”は、今の自動車業界で最も重視されている価値の一つです。例えば「音」。エンジン音やロードノイズ、風切り音、会話する人の声、ラジオの音声、音楽など、車に乗ると聞こえてくるさまざまな音を抑制したり、きれいに響かせたり、心地良い最適な環境にマネジメントできたら、乗車体験はきっともっと楽しくなります。旭化成グループは、これらの音をマネジメントするためにエレクトロニクスによる“アクティブ”(音を作るなど外に向かって働きかける能動的)なソリューションと、高機能材料(マテリアル)による“パッシブ”(音を受けとめて制御する受動的)なソリューションの両方からアプローチしています。本特集は3回に渡って、それぞれのソリューションに携わる現場の担当者に現在の事例から今後の展望まで聞いていきます。第1回は、旭化成エレクトロニクス株式会社(以下AKM)の佐伯彰と今井大喜に“アクティブ”ソリューションについて聞きます。

▲旭化成エレクトロニクス(株)M&Sセンターソリューション開発一部 Senior Sound Processing Expert佐伯彰(右)、同センターグローバルマーケティング部 今井大喜(左)

 

序:音マネジメントはなぜ大切なのか?心を動かす音に出会う

“VELVET SOUND”の感動体験と、オーディオマイスターの思い

そもそも「音マネジメント」はなぜ大切で、音の違いは人にどのような影響を与えるのでしょうか?音について考える前に、取材チームは “音の体験室”へ向かいました。AKMが音質評価のために作った特別なオーディオルームで、40平米ほどの空間にオーディオセットとプレミアムオーディオICブランド「VELVET SOUND」のD/Aコンバーター筐体が設えられています。ここでオーディオマイスターの佐藤友則が音の聴き比べを実演してくれました。音源には米津玄師のCDアルバムから「感電」をピックアップ。はじめは普通に再生して聴き、次に同じ空間・同じアンプとスピーカーでAKMのD/Aコンバーター*を通して聴きます。
(*D/Aコンバーター:デジタル信号を人の耳に聞こえるようにアナログ変換する。録音側で実際の生音のアナログ信号をデジタル化するのはA/Dコンバーター)

▲AKMのオーディオルーム

すると最初の試聴では聞こえなかった、気づかなかった音が聴こえてきました。ボリュームは変えていないのに音が増した気がします。画像に例えると、画素数が増えて奥行きや微細なものまできれいに見えるようになったような、音の粒子が鮮明になって自分の聴き取れる解像度が上がった感覚です。楽しい。豊かさが違います。この理由を佐藤に尋ね、「音」への思いを聞きました。

▲旭化成エレクトロニクス(株)M&Sセンターソリューション開発一部 佐藤友則 Audio Meisterの肩書を持つ

佐藤「AKMのコンバーターのブランドである「VELVET SOUND」は、できる限り音を自然に再現することを目指しています。ここで“音”というのは楽器の音や自然界に存在する音ととらえてください。人の声もその一つです。なぜ音をより自然に再現するかといえば、簡単に言うと『気持ちいいから』です。心に響いて、感動を与えます。音は私たちの暮らしを豊かにしてくれます。言葉もそうです。私たちが有意義に快適に気持ちよく生活するのに欠かせないものだと私は考えています。

音は、人に行動を促します。うまい人の演奏、聞きやすい声の朗読や歌声、鳥のさえずりや穏やかな水の流れ。コンサートや自然を満喫しながら聴いた音を、もう一度体験したくなりませんか?工業製品でも同様です。某ドイツの車メーカーはドアの開閉の音も調整しています。あの重厚感があって安心感のあるドアの音も作られています。心が高揚しませんか?必要ではないかもしれませんが、また買ってみよう、使ってみようと思える動機付けになると思います」

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旭化成の音マネジメント Part 1
エレクトロニクスによる“アクティブ”ソリューション

旭化成のオーディオ製品は、30年以上世界のハイエンドオーディオに採用され市場を牽引してきました。エレクトロニクスによるオートモーティブの「音マネジメント」は、このオーディオ分野の実績をはじめ、音に関わるさまざまな技術を結集したソリューションです。ここからはAKMで音声信号処理技術のエキスパートである佐伯彰とグローバルマーケティング部の今井大喜に製品事例や取り組みなどについて聞きます。

旭化成エレクトロニクス(AKM)の技術を活かして

今井「AKMは、特定用途向けICや各種センサー等の電子部品を提供しています。具体的にはオーディオIC、ガスセンサーなどに使われる赤外線センサー、スマホに入っている電子コンパスなどの磁気センサーを主にラインナップしています。

音については『オーディオ』、『ボイス』つまり会話をメインとしたコミュニケーション部分のソリューション、そして『ノイズ(キャンセル)』の3つのコンセプトをベースに音に関するあらゆる技術を追求しています。オーディオルームで体感していただいたような高品質の音を実現するための技術というのはいろいろあるのですが、例えば出力の信号波形を電源の影響で歪まないようにどうやってコントロールするか、また時間軸方向でいかに時間のブレなく再生するかといったところにもノウハウがあります」

 

車載インフォテイメント用DSPで快適な音マネジメントを

佐伯「車室内の様々な技術を集積したデジタルシグナルプロセッサー(DSP)が、車載インフォテイメント用DSPです。車載向けオーディオA/D、D/AコンバーターとDSPが一つのICに入っていて、それとハンズフリーなどのソフトウェア技術を組み合わせて提供しているところが、私たちの車載インフォテイメント用DSPの特徴です。

車載インフォテイメント用DSPはノイズを抑えて車室内を静かにさせたり、ノイズがある中でもスムーズに会話できるようにしたり、音楽の臨場感を伝えるために遠くから聞こえてくるような感覚を信号処理で作り出したりします。オーディオルームと違って、車の中は狭い空間でノイズがたくさん存在しますが、その中でも心地いい音像を作ったり信号処理によってより快適な空間にしたりするというのが私たちのミッションだと思っています」

 

いのちと暮らしに貢献するDSPの機能

自動車内での会話や通話をスムーズにする“In-Car CommunicationやHands Free”

今井「私たちの車載向けDSPの代表的なオーディオ・ボイス機能は、車外とのコミュニケーションをサポートするハンズフリーは勿論、車内のコミュニケーションの円滑化に貢献するIn-Car Communicationなどです。ノイズサプレッション、エコーキャンセル、ハウリングキャンセルなどさまざまな技術を使って音が反響することなく、走行中に環境の変化があっても快適に会話が継続できるように高品質なソリューションを提供しています。

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▲3列シートの車でマイクとスピーカーを使って、運転中に前方を見ながら一番後ろの席の人とも普通の声で会話ができる。周りの音楽や声をマイクが拾ってハウリングを起こすこともない。

ドライビング・エクスペリエンスを安全で豊かにする“Engine Sound EnhancementとEngine Sound Creator”

佐伯「 “Engine Sound Enhancement”は、運転者がエンジン音を楽しめるよう音を作って出すものです。トレンドとして燃費がよく低排出の小さなエンジンにしながら車のブランドアイデンティティーである音をキープしたいという要求が多く、いろいろなメーカーさんが提供されています。

“Engine Sound Creator”は、例えば電気自動車(EV)でエンジン音を作ることができます。EVはエンジンがなく加速感が音で伝わってこないので、ついスピードを出してしまう人がいるんですね。そのため加速感を得られる音が求められます。スポーツカーの音でも宇宙船のような音でもいい。難しいのは最近『何か感性工学的に気持ちいい音を出して』とお客様にリクエストされることがあって、それは何だろうと。これからも、サウンドデザインが出来る人財育成に一層に力を入れる必要が有ると思っています。」

車外にエンジン音を発生させ、歩行者の安全を守る “Acoustic Vehicle Alerting System (AVAS)”

佐伯「EVが歩行者の安全のために車外に音を出すのが“Acoustic Vehicle Alerting System (AVAS)という機能です。“Engine Sound Creator”と同じシステムで音を作り、車内ではなく外に音を出します。各国の法令で速度に伴って音を変えなくてはいけないなど決まりがありますが、例えば中国ではバイクもEVがほとんどで、静かにヒューンと動くのですごく危ない。イスラエルに行った時には通勤にEVのキックボードを使う人が多くて、時速20kmくらいで走ってきて怖かった!バイクやキックボードでもAVASは適用されていくと思います」

静音性=騒音を逆位相で打ち消す“Active Noise Cancelation (ANC)”

佐伯「“Active Noise Cancelation (ANC)”は、ノイズと逆位相の周波数を流してノイズを打ち消す技術です。この分野ではエンジン音の『こもり音』を消してしまう“Engine Order Cancel”がすでに実装されています。『こもり音』はブーッという低周波数の不快な音で、100Hz付近の周波数をターゲットにして消しにいきます。エンジン音が全部なくなるわけではないのですが、不快なこもり音を落とすとそれだけでノイズの音圧がかなり減ります」

 

電気的にノイズを抑え、重い遮音材を減らせば車が軽くなる

佐伯「エンジンは、その種類によって何回転まわすとどういう音が出てくるというのは決まっています。一般的な4気筒の車であれば3,000回転まわすと100Hzの低周波の『こもり音』が強く出てきます。これを車内に入ってこないようにするには振動を抑える必要がある(制振)ので、今までは重い部材を貼ったり覆ったりしていたのですが、音波で打ち消せばそれら部材を減らす事が可能で車体重量の軽量化に貢献できます。

現在私たちはイスラエルのSilentium社と協業して、エンジン音だけでなく走っている時のロードノイズ(路面とタイヤの摩擦音)等の低い周波数の音を電気的にキャンセルしていく技術を一緒に提供していこうと進めています」

 

エレクトロニクスが得意なノイズキャンセルは低周波

佐伯「ノイズというのは低い周波数から高い周波数まであるのですが、電気的に消せるのは低い周波数だけなのです。オーディオ用のイヤホン・ヘッドホンのノイズキャンセリングなら2,000Hzくらいまで。ヘッドレストにスピーカーを持ってくれば1,000Hzくらいまで消せますが、高コストになってしまいます。オーディオスピーカーだけだとエンジン音は300Hz、ロードノイズは500Hzくらいまでです。

低周波ノイズのキャンセルは電気に任せ、高周波ノイズはマテリアル(高機能材料)で吸音、又は遮音する。より広い周波数帯域をカバーすることで。より静かな車内空間の実現を目指せると思います」

エレクトロニクスによる「音マネジメント」=“アクティブ”ソリューションの強みは、車体に重量負荷をかけずにニーズに応じた音を作れることや、低周波のノイズを消せること。その可能性は今後ますます広がっていきますが、中高音域のノイズキャンセルについては、旭化成の高機能材料による“パッシブ”ソリューションに期待がかかります…第2回へつづく

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