vol.09 特集テーマ サーキュラーエコノミーへの取り組み

植物由来のバイオプラスチックで、自動車をサステナブルに

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バイオマスから、既存の高機能でリサイクル可能なプラスチックをつくる新技術

生産から回収に至るまで、自動車のライフサイクル全体で今求められている環境配慮へのソリューションとして、後編では旭化成のバイオプラスチックに関連した技術をご紹介します。バイオプラスチックは、石油ではなくバイオマスを原料とするプラスチックで、材料生産の段階からCO2排出量を大幅に削減できると、世界各国で様々な研究開発が進んでいます。ただ品質面や安定供給の懸念など、普及にはいくつかの課題がありました。旭化成は10年前から着手した研究の蓄積を活かし、自動車部品に汎用できるリサイクル可能な、植物由来のバイオプラスチックに繋がる技術を実現しようとしています。サーキュラーエコノミーへの移行と脱炭素社会に貢献するサステナブルな材料供給が可能になるとして、期待される本技術。事業開発の中核を担う垣平洋に、その特性や量産に向けた課題などについて話を聞きます。

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▲旭化成株式会社 環境ソリューション事業本部 技術開発総部 新事業開発室 垣平洋

植物などから、自動車用の高機能プラスチックを生み出す

垣平「バイオプラスチックというのは、植物などの有機資源(バイオマス)を原料としてつくられたプラスチックのことです。様々な種類がありますが、最も一般的に知られているのは、生分解性プラスチックだと思います。ある条件で土の中に入れておくと分解するのですが、リサイクルによる再利用は難しいのがネックです。発酵法と呼ばれる、糖を発酵させて得た新規な基礎原料でつくるバイオプラスチックもあります。私たちが開発したのは、バイオエタノールから化学的なプロセスによってプラスチックの原料となる基礎化学品をつくる技術です。エタノールの原料として最も使われているのはサトウキビとトウモロコシで、その搾りカスや芯・葉といった農業残渣などの非可食部分からつくることもできます。

今回の私たちの技術では、既存のプロセスよりもCO2の排出量が少なくて済む設計になっています。さらに生分解性プラスチックや発酵法のみでつくる新規なプラスチックと違って、既存のエンジニアリングプラスチック(以下、エンプラ)と変わらない高機能で高品質なエンプラをつくることが可能です」

 

既存の設備を使って、多様なバイオプラスチック製品をつくれる

垣平「この技術では原料が石油からバイオマスに変わるだけで、従来と同じ使い勝手のプラスチックをつくることができます。製造工程も同じで、いろいろなものを混ぜて成形する際の工程も変わらないので、既存設備をそのまま流用することができますし、石油由来とバイオマス由来のプラスチックを混合して製品をつくることも可能です。さらにこのバイオプラスチックは、リサイクルできるという点が大きなメリットだと言えます。

実は、旭化成は10年前に1度バイオ原料の研究開発をしていました。実証まで行なったものの、当時はエタノールの価格が高くバイオプラスチックの需要もないと、お蔵入りになってしまったのです。その後、サステナブルな材料を使った製品を使いたいという要望が国内でも高まって、2021年の春に研究開発を再開しました。蓄積していたデータをもとに触媒などのプロセスを見直していき、現在はプラント設計のフェーズに入っています。過去にいろいろやってきた実績があるので、開発期間をかなり短く抑えられていると思います。

バイオエタノールから基礎原料を創出する旭化成のソリューション

▲バイオエタノールから基礎原料を創出する旭化成のソリューション

また今回開発した技術には、触媒やプロセス設計といった、これまで旭化成が50年以上培ってきた石油化学の技術が非常に役に立っています。石油をいかに効率的に使うかという研究が、バイオマス由来の原料をどう使いこなすかという技術に応用されています」

新しい価値を消費者にどう伝えるか、販売先企業とともに考えたい

垣平「量産化に向けたプラント建設は、日本国内や韓国、タイなどアジアを候補地としていろいろ検討しているところです。ニーズの増加とともに、少しずつ生産のキャパシティを増やしていきたいと思っています。並行してライセンスビジネスも進めていきます。

プラント設計と同時に、原料の調達から販売先の確保まで、事業全体をどのようにつくっていくかを考えなくてはなりません。原料の調達では、エタノールのサプライヤーとお話しています。サトウキビ由来のエタノールは生産量が世界規模で大きく、現在はガソリンに混合され燃料として使われることが多いですが、EVが普及していけばガソリン向けの需要が減る分、バイオプラスチック向けに活用していけるのではと思っています。

バイオプラスチック向けの原料販売先は、国内だけでなくヨーロッパやアメリカまで足を伸ばして探しています。一般的に自動車のブランドオーナー(OEM)が、サステナブルなバイオ材料などの採用決定権を持っていることが多いです。私たちはOEMの方々と会って、バイオプラスチックをどのように採用してもらうか、その価値をどのように消費者に伝えていくか、といったことを議論しています。バイオエタノールから様々なプラスチックをつくれるということをお話すると驚かれる方も多いですね」

牽引するヨーロッパ、「バイオ認証」の整備が求められる日本

垣平「海外、とくにヨーロッパの消費者は、早くからサステナブルな材料を使った製品を使いたいという要望が高く、バイオプラスチックはそのソリューションの一つとして注目が集まっている技術です。今より20年近く前の2005年に、EUはエネルギーをはじめ消費産業のGHG排出抑制を促す“排出量取引制度(EU-ETS)”を導入しました。2021年以前、私はドイツの旭化成ヨーロッパにいたのですが、当時すでにヨーロッパのお客様からは、「この材料のCO2排出量はどれくらいなのか」とか「将来的に原料のリサイクルを進めたり、サステナブル材に替えたりしていくためのロードマップをつくりたい」といった問い合わせがありました。日本はここ2、3年でようやく変わってきた感じです。

しかし日本ではまだ、バイオプラスチックに興味を持っていただけても、既存のプラスチックに比べて価格が高いことがネックになってしまうケースが多いですね。価格は原料によるところも大きいのですが、今後普及して量が増えていけばプラントのサイズも大きくなってスケールメリットが出てくるので、一定程度安くなっていくと考えています。

価格もネックですが、日本ではもう1つ市場で「マスバランスアプローチ制度」の認知がまだ進んでいないことが大きなハードルになっていると思います。「マスバランスアプローチ」は簡単に説明するならば、例えば全体の原料100トンのうち5トン分だけバイオ原料に置き換えた時に、製品全体が5%バイオ化された、とするのではなく、5トン分の製品が100%バイオであるとの認証を付与する制度です。この制度により、製品全体の価格が均一に高くなるのではなく、バイオの価値を受容していただけるお客様向けに、100%バイオ認証を付与した製品を供給することが可能になりますが、欧州とは異なり、日本ではまだバリューチェーンの川上である石油化学の分野でしか理解が進んでいない状況です。」

リサイクルとバイオ由来の両輪で、循環型社会の実現を

垣平「今後自動車のプラスチック部材としては、まずリサイクルに重きを置いて、リサイクルが難しい材料をバイオプラスチックで置き換えていくというのが、私たちとしてはより良い提案になるではないかと思っています。例えば合成皮革、インテリアの表面加工、塗料、接着剤といったところに使われるウレタンなどはリサイクルが難しいので、リサイクルできない部位にバイオ由来の材料を活用することでCO2排出量を削減できることに繋がるため、将来的にバイオプラスチックを使ってもらえる可能性があります。

自動車以外のバイオプラスチックの用途としては、サトウキビ由来のエタノールから製造したポリエチレンを、レジ袋に加工して日本でも販売されています。また飲料のペットボトルや衣服のポリエステル繊維をリサイクルする際に、どうしても100%回収できずに一定程度材料が不足してしまうので、その分を今後バイオプラスチックにしていくことが望ましいと考えられます。

サーキュラーエコノミー社会へ移行するためにバイオプラスチックが果たす役割

▲サーキュラーエコノミー社会へ移行するためにバイオプラスチックが果たす役割

私たちの開発している技術は、バイオエタノールからいわゆる基礎化学品をほぼ全部つくれる技術なので、今まで石油からつくっていたもの全てを、バイオ由来に変えていける可能性を持っています。かなり先の未来になるかもしれないのですが、日本だけでなく世の中のプラスチックや化学製品が、最終的にはリサイクルとバイオ由来のものでできるようになると、すごくいいなと思います。リサイクルとバイオ技術の両輪で、本当の意味での循環型社会“サーキュラーエコノミー”が実現するのではないでしょうか」

 

サーキュラーエコノミーへの貢献:より多くの自動車部品をバイオマス由来に
https://ak-green-solution.com/biobased_materials/

旭化成は創業以来、「世界の人びとの“いのち”と“くらし”に貢献する」ことをグループの理念として、社会に様々な新たな価値をご提案してきました。新技術のケミカルリサイクルとバイオ基礎化学品から製造されるバイオプラスチックも、これまで旭化成が長年事業で培ってきた多様な知見が活かされています。しかし私たちだけでできることは、限られています。社会の課題はますます複雑に絡み合い、解決するには業界や業種など従来の境界を超えた連携や協働が必要とされています。サステナブルな自動車を実現するために、そしてサーキュラーエコノミーへの移行を進めるために、ともに考え、取り組んでくださる皆様がいらっしゃいましたら幸いです。

 

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