vol.06 特集テーマ Creating for Tomorrow

次世代コンセプトカー【AKXY2】次の時代を見据えながらこれまでの枠組みを超えて、車の新しい価値を提案する取り組みをご紹介します。

なぜ旭化成が未来のクルマをつくるのか?〜“AKXY”, “AKXY POD”, “AKXY2”と続くコンセプトモデルの挑戦〜

旭化成が、丸ごと車を1台作ってみたら…? そんな意外なチャレンジが数年前から始まっています。2017年に初代“AKXY”を発表。2019年に2代目の“AKXY POD”、そして2022年5月には3代目の “AKXY2”がデビューします。自動車業界は今、百年に一度の大変革期を迎えていると言われますが、なぜ自動車メーカーではない旭化成がコンセプトカーをつくるのでしょうか。そこにはどのようなメッセージが込められているのでしょうか。コンセプトカー誕生の経緯やプロジェクトにかける思いを旭化成モビリティ戦略推進室の高木一元、森住昌弘、本庄崇文に聞きます。

▲左から、モビリティ戦略推進室 森住昌弘、同推進室 室長 高木一元、同推進室 本庄崇文

材料メーカーが、1台の車をイチから考えてつくって学びたい

高木「2016年に旭化成の中期経営計画の柱として自動車事業を強化するという経営方針が出されて、自動車事業の拡大と、お客様とのコネクトの強化、知名度の向上といった目標が挙げられました。その事業推進とサポートのために4月1日にオートモーティブ事業推進室(現モビリティ戦略推進室)が立ち上げられ、社内のいろいろな部署から人が集められました。

旭化成は車の材料となるさまざまな製品をつくって納めているけれど、世の中にはほとんど知られておらず、車メーカーでない私たち自身も車について正直よく知りませんでした。そこで旭化成の車に関わる事業を広く知っていただくために、また私たちも車そのものをもっと理解するために、さらに社内が一体感を持って車の事業を頑張っていくためにという3つの目的のために、象徴的なコンセプトカーを1台つくろうということになりました」

▲高木と森住はエレクトロニクス事業部からオートモーティブ事業推進室へ来た。もともとものづくりが好きで、車も好きだった高木にとってコンセプトカーづくりは、非常によい経験を得られていると言う。

走る次世代車のショーケース、初代“AKXY”2017年デビュー

高木「コンセプトや製作方法を集中して話し合うために、2016年6月には推進室の皆で合宿もしましたね。協業していただけるところを探して、夏にはEVプラットフォームメーカーである京都のベンチャー企業、GLMさんにお願いすることにしました。コンセプトカーづくりに長けた会社など候補先はいろいろありましたが、私たちが選択したのは将来を見据えた未来感やインパクトでした。EVや環境に良い車というのは今ではあたり前に言われていますが、そのときはまだ『車の変革期が来ている』と言われ始めたばかりの頃でした」

森住「デザインは、当時流行り始めていたSUVテイストにしながら曲線と直線を組み合わせて環境や調和といったキーワードを体現しました。そのとき旭化成が持っていた、車に使える技術材料を極力たくさん載せようと決まって、最終的には37品目を搭載した『走るショーケース』になりました。

▲コンセプトカーをつくるには、旭化成のさまざまな事業や製品を知らなくてはならない。これまでの垣根を越えて人と会い学んでいくことで、自分の世界が広くなっていくと森住は言う。

AKXY(アクシー)という名前は、AKが旭化成、Xが掛けるの意味、YはYouで、私たちにとってのお客様である車メーカー様やエンドユーザーでもあります。展示会では皆さんに実際に乗って体験してもらうことを前提につくりました。SUVのデザインにしたのも、スポーツカーやセダンより乗り降りしやすいという理由がありました」

▲AKXYのテーマは『自動車の安全・快適・環境への貢献』。金属材料の代替として自動車の軽量化を実現するエンジニアリング樹脂や、快適性に優れるカ―シート用人工皮革、各種音声処理技術を利用した車内コミュニケーションシステム、車内の空気環境をセンシングするCO2センサーなど、自動車に今後求められる最先端技術を多数搭載している。

高木「完成発表会は、2017年5月17日に豊洲でやらせていただきました。事前にお知らせしたこともあってメディア報道を含めて来場者が120〜130名、発表メディアは50社くらい。一緒に次のコンセプトをやりたいというお申し出や、『この車は売るんですか?』などいろいろな反響がありましたが、私たちの目的の通り、事業として旭化成の技術材料に対して多数の引き合いをいただくことができました。この後AKXYは『人とくるまのテクノロジー展』など国内外の展示会、いろいろな企業様への訪問や旭化成の拠点、ドイツ、フランス、アメリカ、中国、インドなど世界中をまわって来ました」

▲2018年11月にドイツのミュンヘンで開催された「electronica 2018」の様子。

未来の移動体の内装空間、2代目“AKXY POD”2019年誕生

高木「初代AKXYが完成した後、世の中のトレンドとしてまた一歩先の車の進化形として自動運転など、いわゆる“CASE”が示されつつありました。さらに2018年に旭化成はアメリカの内装材メーカーのセージ社を買収しまして、内装材の事業をより強化することになりました。この2つの背景のもとに、今度は将来の自動運転時代を見据えた内装空間のコンセプトを提案しようと、新しいプロジェクトがスタートしました。

“AKXY POD”と名付けられた2代目コンセプトカーでは、すぐに使える技術や材料だけでなく、未来はこういったことができるというご提案をお客様に見ていただくことで議論を生み、一緒に次のステップに進むきっかけを作りたいと考えました。

2019年5月に「人とくるまのテクノロジー展」で発表したところ、コンセプトがちょっと飛び過ぎたということもあって、私たちが本来ターゲットとしている車関連の方々から『何これ?』という反応もありました(笑)。それでも、そこからきっかけが生まれて、いろいろ繋がっていきました」

▲AKXY PODにはタイヤも、運転席のハンドルもない。一見すると初代AKXYと大きく異なるが、真上から見るとほぼ同じオーバル形を継承している。左右が開いたデザインは、自動車と素材、搭乗者と自然とのつながりを表現し、旭化成のビジョンである「環境との共生」を象徴している。

森住「それがこのAKXY PODを今年の2022年1月にラスベガスでリアルに開催されたCES(Consumer Electronic Showハイテク技術の国際見本市)に持って行ったところ、反響がとても良かったんです。CESは自動車関係ではない人たちもたくさん来場するのですが、『将来の移動空間です』と話をすると、『非常に面白いね!』とか『いつできるの?』と聞かれてネガティブな意見がほとんどなくて、やっぱり見る人たちや見方によって受けとめられ方が全く違うんだなと思いました。

AKXY PODのコンセプトのキーワードは五感です。これに乗ってもらうと味覚以外の五感、視覚・聴覚・嗅覚・触覚を体感していただけます。CESで人気があったのは、天井に映し出される映像がナレーションや音楽と一緒に変わるところと、ストーリーの中で変化する匂いでした。森林のような爽やかな香りを発したり、最後には桜の香りを出したりするのですが、皆さんマスクをしていても感じられるので『おおーっ』と歓声が上がりました」

▲2022年1月にラスベガスで行われたCESの様子。

コロナ禍の時代が決めた3代目“AKXY2”のコンセプト

高木「2019年にAKXY PODが発表された後、私たちは次のコンセプトカーの必要性を感じていました。次はまた『実際に車として成り立つ形のものをつくりたい』とすぐにAKXY2のプロジェクトをスタートしたのですが、3代目ともなると目標が上がってしまって、さらにコロナ禍もあってコンセプトが定まるまでとても長い時間がかかりました」

本庄「さまざまな方向性を議論していく中で、旭化成は住宅部門も持っているという強みを活かして、住宅と車を融合させてみるのはどうだろうと考えました。車を『動く空間』と一度捉え直して、移動しているときだけでなく止まっているときにもやりたいことができる『自分の好きな空間』にできれば、より楽しい車の未来形を見せることができるのではないだろうか…そんな考えが住宅部門の人と話す中から出てきました。

▲コンセプトづくりでは何が正解なのかわからない。しかし「世の中で求められているものは何だろう?」「面白いと思われていることは何だろう?」と真剣に考えることが、個人的にも会社としてもすごく大事なのではないかと本庄は言う。

しかしそういう議論を深めていっている間にパンデミックになってしまって、オンラインやDXの流れが一気にやって来ると、社内でも『リアルなものをつくる意味はあるの?』『こんなときにコンセプトカーは必要なの?』と疑問視されたことが一時期ありました。コロナ禍は、人間が外に出かけたいと思う欲求やリアルな体験を求める気持ち、リアルの価値などを見直すきっかけになり、コンセプトカーを実際につくることにしました。

▲初期のコンセプトデザイン。一番初めは家具の一種という車らしからぬ発想から始まり、徐々に車としての体を成すデザインに落ち着いていった。旭化成のグローバル拠点だけでなく海外の社外の人もチームメンバーとして加わり、AKXY2はオープンイノベーションに向けた取り組みにもなっている。

コロナ禍によって、在宅勤務をするにも日本では個室がないとか、人と密にならないような過ごし方をしたいとか、空間や時間の使い方が見直されました。それと同時に自動車業界にも非常に大きな変化が起こっていて、自動車メーカー各社もいよいよEVへの流れが本格的になってきました。エネルギーしかり車を作る材料しかり、サステナビリティに変わっていった。そういう中でAKXY2のコンセプトの方向性は、私たちの間でもかなり議論をしたのですが、最終的には世の中の流れの影響も大きかったと思います」

AKXY2からのメッセージは、クルマの価値を高める“3つのS”
〜Sustainability, Satisfaction, Society〜

本庄「現在AKXY2は5月の『人とくるまのテクノロジー展』に向けて鋭意製作中です。これまでに議論を積み重ねてきたコンセプトは、いよいよ社内外でわかりやすくコミュニケーションできるように“3つのS”にまとめました。Sustainability, Satisfaction, Societyです。

▲AKXY2が提案する車の新しい使い方を表現したイメージビジュアル。外出先に部屋の機能を拡張したり、屋外との境界線を感じない屋内空間をAKXY2が生み出している。

Societyは社会と車のつながりのことで、AKXY2では移動時以外も車がさまざまな「場」となるという車の新しい使い方を表現しています。車が単純な移動空間ではなくなってくるのではないかというのは、住宅部門の人と話していたときに出てきた考え方です。例えばAKXY2でキャンプ場に出かけて星空を見る。街角に停めて友だちと飲茶を楽しむ。あるいは家の中に停めて個室として使う。さらにAKXY2を見たお客様が、こんな使い方もあるよね、こういうことができたらいいよねというのを楽しく想像していただきたいと思っています。AKXYという名前に込められているように、誰かパートナーと一緒に考えていきたいです。

ホームページ:https://fortmarei.com/

第2回、第3回では、AKXY2のコンセプトの中でSatisfaction、そしてSustainabilityをテーマに搭載された旭化成の製品や技術をピックアップして、そこに込められた思いなどを聞きます。

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