vol.06 特集テーマ Creating for Tomorrow

<第3回>次世代コンセプトカー【AKXY2】次の時代を見据えながらこれまでの枠組みを超えて、車の新しい価値を提案する取り組みをご紹介します。

“AKXY2”から未来のクルマと私たちのSustainabilityが見える

コロナ禍からの経済復興策であるグリーンリカバリーのように、持続可能な社会への転換を苦行ではなく明るい未来への道筋として発想する新しいものづくりが活発化しています。AKXY2もコンセプトである3つのS(Society, Satisfaction, Sustainability)の中でとりわけ重いテーマであるSustainabilityを、心豊かにワクワクするものへ昇華して表現しています。例えばガラスでは不可能だったデザインを樹脂で叶えるハードコート剤や、環境負荷を減らしながら美しさや丈夫さで付加価値をもたらす塗装用硬化剤を“AKXY2”は使用。本シリーズ第3回はこれらの事例に焦点を当て、Sustainabilityの観点からAKXY2はどのようなモビリティのビジョンを見せてくれるのか、各技術を代表する事業部の7名(田中直樹・佐々木恵吾、杉本篤俊・岩本晃・山本進吾、山内理計・中西祐樹)と、初回から引き続きモビリティ戦略推進室の本庄崇文に聞きます。

▲(後列左から)「旭化成アルミペースト」担当:岩本晃、杉本篤俊、山本進吾。モビリティ戦略推進室:本庄崇文(前列左から)「樹脂グレージング用ハードコート」担当:佐々木恵吾、田中直樹。「デュラネート」担当:山内理計、中西祐樹

旭化成のサステナブルな技術を“AKXY2”に集結して

本庄「自動車におけるサステナブルな取り組みとしては、例えばエネルギー源をガソリンから電気や水素に切り替えていくこと、車の材料をより再生可能な原料に置き換えていくこと、製造時や走行時の二酸化炭素排出量を削減することなどがあります。私たち旭化成もそういった潮流に積極的に貢献していきたいと、自社で蓄積してきた技術の中からサステナビリティを訴求できるものを選びAKXY2に搭載しています。

旭化成株式会社 モビリティ戦略推進室 本庄崇文

■Sustainability製品例01 樹脂グレージング用ハードコート

新開発!ガラスから樹脂へ、代替する以上の価値をもつ水系コート剤

▲旭化成株式会社  モビリティ&インダストリアル事業本部 機能性コーティング事業部 新規事業開発グループ 営業グループ長  田中直樹

「今回AKXY2に採用された樹脂グレージング用ハードコート剤はまだ上市されていない旭化成の開発品です。車体を軽量化するためにガラスを樹脂で代替するニーズは元々あったのですが、そのために必要なコート剤の技術は自動車業界では唯一のミッシングパーツと言われてきました。樹脂窓の材料であるポリカーボネートはワイパーで擦ったりウインドウを開け閉めしたりするとすぐに傷ついて、外に置いておくと黄ばんで透明度が落ちていってしまいます。これらの課題を克服するために私たちは数ミクロンの薄さでポリカーボネートを傷から守り、透明性を維持するコート剤を開発しました。」

▲開発した樹脂グレージング用ハードコートは耐摩耗性が高く、高耐候(耐UV)性・対薬品性にも優れており、透明性を保つことが実証されている。

佐々木「水系塗料なので、自動車の塗装材料に長年用いられてきた有機溶剤の懸念点であった有害なVOC(揮発性有機化合物)の発生が無く、塗装作業者にも環境にも優しいです。樹脂窓になるので、重量はガラスに比べて4割から5割くらい軽くなって燃費電費が改善し、CO2 排出量も大きく減ります。

ポリカーボネートの樹脂窓はデザインの自由度が高いのが特徴です。AKXY2のように曲率の大きいデザインにも対応できます。将来的に従来のデザインの枠を超えたニーズが出てきてもポリカーボネートなら対応できますし、我々のハードコート剤を塗装すれば傷つきにくく透明性を保てるようになると思います」

 

▲樹脂グレージング用ハードコートの今後期待される自動車活用例

サステナへの貢献と、夢のデザインが技術の力で叶えられる

佐々木「まだ開発品なのでAKXY2の塗装は今回ラボの中でできる限りのことをしました。今後、自動車の厳しい要求水準をクリアしていくために開発を続けていきます。お客様には、大幅な軽量化によって航続距離を伸ばすことに寄与できることや、デザインの自由度が上がることなど付加価値をアピールしていきます」

▲旭化成株式会社 研究・開発本部 先端材料・システム研究所 機能性ナノ構造材料開発部主幹研究員 博士 佐々木恵吾

本庄「私たちが考えたコンセプトではクルマは止まっている時もそこでやりたいことができるプライベート空間、社会とつながる場であると考えました。そのためにAKXY2のデザインは閉じていてもあたかも閉じていないかのような可能な限り開放感のあるものにしたいと思いました。ただ、このデザインはガラスでは表現できません。今回このハードコート剤を使うことで、ガラス窓の樹脂代替によって軽量化によるサステナビリティに貢献するという私たちの想いを将来的に実現する可能性を示すことができたと思います。

自動車の未来を考えたときにAKXY2でご提案していきたいのは、自動車の新しい使い方やただの移動手段ではない付加価値です。AKXY2を見た方が『今までの自動車ではあり得ないデザインだけれど、こういうのもありだな』と思ってくださって、『こういうものを実現するためにはやっぱり旭化成がいるね』と繋がっていったら嬉しいです」

■Sustainabiity製品例02 旭化成アルミペースト

塗装工程における環境負荷を克服し、美しい輝きで心をつかむ

▲旭化成メタルズ株式会社 技術開発グループ長 リードエキスパート 杉本篤俊

杉本「旭化成アルミペーストは、アルミニウム粉末を5ミクロンから20ミクロンくらいの非常に微細なフレーク状の粒子に加工していて塗料を光らせる顔料です。自動車では主に外装材のベースコートとして、いわゆるメタリックと呼ばれる色を出すために広く使われています。従来鋼板が使われていたボディーなどに金属ではなく樹脂材を使い、その上にアルミペーストで塗装すると、車体を大幅に軽量化しながら重厚感や高級感のある意匠を付与することができます。

アルミペースト単独ではシルバーメタリックですが多彩なグレードがあり、色の顔料を加えて組み合わせればカラフルなメタリック色になります。新しい技術のトレンドとしてはアルミペーストと色顔料を混ぜずに塗工層を分け、例えばアルミペースト塗工層の上にさらに着色塗工層を重ねることで従来よりも高彩度が実現できるようになっており、メタリック意匠の可能性が広がっています。

▲『シルバー』と言っても様々なバリエーションがあり、明度やフリップ・フロップ性(光学的異方性)、粒子感などによって多彩な表現が生まれる。 http://akcpc.jp/alumipaste/

自動車製造の塗装工程は多量の溶剤を使用するため非常に環境負荷が大きくて、この課題に塗料塗装業界ではいろいろなアプローチで対応してきたのですが、最近は溶剤から水系のものに代える比率が高まっています。通常のアルミペーストは、アルミニウムの持っている両性(酸やアルカリに溶けやすい)金属という特徴から水系塗料にすることが難しかったのですが、旭化成アルミペーストは表面にいろいろな化学的処理を行って水系にも対応できるようになり、溶剤の排出量削減に大きく貢献しています」

愛着を生み、大切にされるモノづくりに貢献することもサステナ

杉本「時代によってカラートレンドは変わります。また自動車の外装はどちらかというと光る方がいいけれど内装は逆にあまり光らない方がいいとか、明るく見えるといいもの、沈み込む感じがあるといいものなど、用途によって適した色やトーンがあります。こういったお客様のニーズに合わせて今後もきめ細かく材料を開発し提供していくことが、私たちの一番の使命かなと思っています」

▲旭化成アルミペーストは自動車の外装をはじめ、家電や携帯電話、パソコンといったIT機器、エレベーターの内装や建築用材料などに活用されている。意匠性に富んだ多様なメタリックの発色だけでなく、隠蔽性やガス・水・紫外線から被塗装物を保護する効果や、光線・熱線を反射して保冷断熱効果もあるといわれる。

山本「色やデザインは人間の感性と密接に関係していて、それぞれ伝わるものがありますよね。今世の中には、ただ機能だけで見たら満ち足りているものも多いと思うのですが、その中であえて欲しいと思える、持っていていいなと思える独自性や付加価値を私たちが提案して貢献していきたいです。環境負荷の高いメッキに代わる加飾技術もこのアルミペーストの技術革新によってできるかもしれません。環境対応をしながら私たちが意匠性や表現の幅を広げていくことができるのではないかと思っています」

▲旭化成株式会社 モビリティ&インダストリアル事業本部 機能性コーティング事業部 アルミペースト事業グループ アルミペースト営業グループ 山本進吾

岩本「アルミペーストを作っている競合は世界にあって、より輝く粒感のない金属に本当に近いものを追求する開発競争もあります。これからも旭化成はその中で自分たちの強みを活かして機能を高めて、先頭を行くものを出していきたいですね」

▲旭化成株式会社 モビリティ&インダストリアル事業本部 機能性コーティング事業部 アルミペースト事業グループ アルミペースト営業グループ長 岩本晃

本庄「AKXYシリーズの初代から歴代で、アルミペーストはシルバー系の色味を出すエクステリア塗料として車体の広い面積に使ってきました。今回AKXY2ではコンセプトの柱になったSustainabilityについてチームで議論を重ねる中で、『ずっと続けようと思ったら我慢を強いられるものはサステナブルではないよね』という話になりました。アルミペーストのような製品は、所有する欲求や満足感をもたらして、環境に優しい特性が嬉しさにも繋がっていくことを一番表現できる材料かもしれません。楽しいけれど我慢しないというところを、アルミペーストによって提案できると非常にいいなと思っています」

■Sustainability製品例03 デュラネート

成分のたった10~20%の使用で全体性能を劇的に変える、水系塗料にも使用可能な硬化剤

▲旭化成株式会社 機能性コーティング事業部 デュラネート技術開発部 部長 リードエキスパート 山内理計

山内「デュラネートはウレタン塗料の一原料で、塗料のメインの成分に混ぜることで非常に高い耐久性を発現する硬化剤です。全体の10~20%程度の比率しか占めなくても、性能を出すためのキーとなります。特に耐候性に優れるため、直射日光の当たる屋外塗装用塗料に多く使われています。新車をはじめ、バスや電車の車体、航空機の機体、高層建築の外壁や橋脚、木材の床など長期的な耐久性が必要なところの塗装ですね。

希釈されている塗料溶剤が揮発する間に架橋反応が進行して、化学成分が文字通り『橋が架かる』ような反応をすることで強靭な膜を形成します。もし架橋がかかっていない塗装だと軽く爪で引っ掻いても傷がついてしまいますし、屋外に置いておくと1カ月ももたずに傷んでしまうので、デュラネートは自動車のボディーの外装に必須の成分といえます。

▲デュラネートの特性 http://akcpc.jp/duranate/

例えば、自動車用塗料は溶剤系塗料も使用されていますが、溶剤系の中でもできるだけ希釈溶剤量を削減することで環境負荷を減らし、さらに環境に優しい水系塗料も開発してラインナップに加わりました。エネルギー使用量やCO2 排出量削減のため現行の140℃より低温で架橋反応が進行する新製品の開発を進め、塗料メーカーと協業し、採用に向け尽力したいと考えています」

▲旭化成株式会社 機能性コーティング事業部 新規事業開発グループ 技術グループ 中西祐樹

中西「私はその中でもX-TTIという新規硬化剤の開発に取り組んでいます。従来の硬化剤よりも非常に低粘度で、140度より低温で焼き付けても塗膜が優れた耐久性を示すのが特徴です。今のターゲットは焼付温度を80度まで下げることです。

デュラネートの開発は、今後さらに環境に対応した方向へ進んでいくと思います。その良さをどうやって伝えていくか…例えば開発品X-TTIの良さと言っても、正直私以外まだ世間の誰にもわからないものです。その開発品の良さを深堀し、面白いと言ってくれる相手を探して、最終的にお客様に認めてもらうことが、私の使命かなと思っています。こういう経験は初めてなので苦労しているところです(笑)」

デュラネートの化学力が、クルマの未来をワクワクさせてくれる

山内「AKXY2には、ボディーのエクステリア下半分の外装に溶剤使用量を低減できるタイプのデュラネートを、またインテリアの木のテーブルには水系のデュラネートを使っています。木材に塗装すると例えばコーヒーをこぼしても染込み、シミ等がつく心配がありません。

本庄「デュラネートという製品は世の中では一般的に名前も知られていない、ある材料を構成するごくごく一部でしかない成分ですが、その材料そのものの性能を大きく左右して環境にも貢献できます。神は細部に宿り給うと言いますが、もともと化学をやっていた私のような人間にとって『これこそ化学メーカーの仕事』であり、旭化成らしいところだと思うのです。今後の進化の方向も、やっぱり最も旭化成らしい仕事をこのまま続けてほしいなと思っています」

コロナ禍をはじめとする厳しい社会情勢の中で一つひとつ課題をクリアしながら、AKXY2は2022年5月25日「人とくるまのテクノロジー展」横浜展示会で無事リリースの日を迎えました。『なぜ材料メーカーがクルマを作るのか?』と問われながら、2016年にスタートした旭化成のコンセプトモデル・プロジェクト。今あらためて見えてくるのは、“次世代のクルマを考えることは、人と社会を考えること”。変わりゆく世界で、変わらない人々の営みや価値観を見つめ、さまざまな難しい社会課題と向き合って最善の答を探すこと。それは創業以来つづく旭化成の使命であるとともに、旭化成だけで完遂できるものではありません。AKXYの名に込めた『Asahi Kasei(旭化成)X(かける)You(あなた)』という思いの通り、一緒により良い未来を探してくださる『あなた』とともに、旭化成はこれからも素材やエレクトロニクスをはじめ、技術の可能性を広げていきたいと思っています。

 

この記事は2022年12月28日に公開しました。

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