今年のWRC第12戦であり、ヨーロッパラウンド最後のラリーとなるのがラリーRACCカタルーニャ・コスタダラダ。ラリー・デ・エスパーニャとして知られるWRCスペインラウンドは1991年のWRC昇格当初はリゾート地ヨレット・デ・マルを中心にラリーカタルーニャ・コスタブラーヴァとして開催されていた。
2005年にサロウに開催地を移しコスタダラダへと名称を変更。サービスパークが置かれるのはスペイン最大のテーマパーク、ポートアベンチュラだ。
南ヨーロッパのWRCは熱狂的な観客で知られ、スペインもその例に漏れないが、2020年にはWRCから落選。しかし翌2021年には早くも復帰し、今年もまたサロウにラリーカーが集結した。
他のターマックラリーに比べ、高速で道幅があることが特徴のカタルニアだが、トヨタがメーカーチャンピオンに王手をかけており、王者を争うトヨタと最終戦までもつれこませたいヒョンデの激突が期待された。
デイ1序盤からトヨタとヒョンデの真っ向勝負
ラリーは近年のWRCには珍しく10月21日金曜日の山岳ステージからいきなりデイ1のSSが開始された。ターマックラリーではグラベルと異なり綺麗な路面を走れる先頭が有利。これは車が走る度にインカットしてコーナーに土や泥を出していくためだが、アドバンテージを生かして、新チャンピオンのカッレ・ロバンペッラがSS1、SS2と連続して最速タイムを叩き出す。
そしてSS3はスポット参戦のために1月のモンテカルロ以来のターマックラリーとなってセバスチャン・オジェが圧巻のタイムで首位に立った。このSSではヒュンデのティリー・ヌーヴィルもロバンペッラを抜いて2位に浮上している。そしてヌービルはSS4の最速タイムで首位を奪取。デイ1前半にして3人が首位を奪う激戦だ。
デイ1午後は午前中のステージのリピートだが、SS5ではオジェが再度首位。この後、雨が降り始めて混乱が予想されるが、ロバンペッラがヌービルを抜いてトヨタが1-2体制となりデイ1をゴール。3位はヌービル、4位は同じヒョンデのオイット・タナックだが、今回も彼のi20ラリー1にはハイブリッドブーストが効かなくなるトラブルが発生し、オジェから20秒と大きく遅れている。
続くラリー最長のデイ2はヌービルの逆襲で始まった。過去スペインで圧倒的な強さを見せてきた彼は最初のSS9で最速タイム。2位のロバンペッラの背後に迫る。しかしオジェはまだ余裕があるようで、ヌービルとの差を計算してうまくコントロールしているかのようだ。
これにはSS11として控えるエル・モンメルのロングステージに備えての駆け引きもあった。SS9、SS10でタイヤを摩耗させてしまうとSS11のロングステージで苦しくなるため、各ドライバーがペースを調整していたはずだが、SS11は開始早々にフォードのガス・グリーンスミスがクラッシュして赤旗中断。その後キャンセルとなったことで戦いの山場はデイ2後半に持ち越される。
ラリーはサロウでのサービスを挟んで午後のリピートステージとなるが、このデイ2後半では勝負を決めにいったオジェがSS12、SS13で最速。後続を引き離しにかかる。一方、ロバンペッラの背後にいたヌービルは午後の2つのステージではやや引き離されるが、二度目のエル・モンメルとなったSS14でロバンペッラまで一気に0.4秒差まで詰め、デイ2最後に行われたサロウのスーパースペシャルステージSSS15の最速タイムでついにロバンペッラを逆転。
これでデイ2は首位のオジェを筆頭にヌービル、ロバンペッラ、タナック、ソルドというオーダー。このポジションでラリーが終わればトヨタの王者が決まる。
波乱の展開もオジェは止まらずトヨタ戴冠
スペイン最終日デイ3。すでに2位に20秒差で首位につけるオジェはほぼ安全圏だが、僅差で争うヌービルとロバンペッラの2位争いはまだ先が見えない。
ロバンペッラはなんとかヌービルを捕まえようと激しい走りでデイ3最初のSS16を走り抜けるが、彼の思いとは逆にその差はわずかに広がる。さらにSS17では痛恨のパンクから13秒を失った。原因は排水口の出っ張った蓋だが、同じコーナーではフォードのクレイグ・ブリーンがホイールを壊し、トヨタのエバンスもパンクするなど犠牲はロバンペッラにとどまらなかった。
そしてこの混乱で各車の間隔が開き、残りのふたつのステージでドラマは生まれなかった。こうしてオジェが今季初優勝を飾るとともにトヨタのメーカーチャンピオンが決定。同時にヒュンデのシリーズ2位、フォードの3位が決定している。2位にはラリーを通してトヨタ勢に食い下がったヌービルが入り、3位はロバンペッラ。4位はロバンペッラのパンクで一瞬、表彰台のチャンスがあるかに見えたタナックという結果だった。
ロバンペッラとドライバーチャンピオンを争ったタナックはこのところ立て続けにハイブリッドに起因するトラブルにタイムを失い、同時にモチュベーションを失っているかのように見え、チーム批判めいたことも口にしていたが、このスペインのゴール直後、シリーズ最終戦をもってチームを離れると発表している。
そのシリーズ最終戦、12年ぶりの日本でのWRC開催となるラリージャパンまでは3週間を切っている。
ライター
川田輝(かわだあきら)
1960年生まれ
自動車雑誌の編集部員からオートテクニック、ラリーXプレスの
ジャーナリストになる。
アジアパシフィック選手権、PWRCのチームマネージャーを経て
スズキWRTのチームマネージャーを務めた。
WRCは取材、チーム参戦で250戦ほど経験