World Rally Championship

Rally Report

Round 01

モンテマジック再び

WRC新世紀が伝統の開幕戦で幕を開ける

過去25年間WRCの主役だったWRカーに代わるラリー 1は一般市販車のモノコックボディの代わりに中空の管材を用いた小型レーシングカーに用いられるチューブラーフレームを採用し、そのフレームに車体を被せている。市販車を改造することが常だった従来のラリーカーとは一線を画すWRC史上初の純粋なレースカーであり、さらに初登場のハイブリッドシステムを搭載している。
市販車との関わりを断ち切った夢のような車がどんな戦いを見せるのか。ラリー1への移行が発表されて以来、誰もが知りたかったものが現実となる。その舞台が90回目の開催となるモンテカルロラリー。世界でもっとも長い歴史を誇るWRC伝統の開幕戦だ。
「雪と氷のモンテカルロ」はすでに語り草で、フレンチアルプスも暖冬続きだけに今回のラリーも基本はドライターマック。しかし、麓をスタートして峠を越え、山の向こうの麓へという道路の性格上、標高の高い峠や北斜面には雪や凍結路面が待ち構えている。
どこで足を掬われるか分からない危うさがモンテカルロラリーであり、最終日までリードしていたクルーが最後の最後で勝利を明け渡したことは一度や二度の話ではない。そして、今年もその例に漏れることはなかった。

二人のチャンピオン

ラリーは1月20日の夜、ナイトステージで幕を開け、ベストタイムを連発したのはトヨタのオジェだった。スタート前のシェイクダウンでもトップタイムを出した彼はモンテカルロ優勝8回を誇る絶対王者。
そのオジェに1人だけ食い下がったのが前週までダカールの砂漠を走り回っていたフォードのセバスチャン・ローブである。ローブはオジェより一世代前のモンテマイスターであり、過去優勝7回。そしてこの2人の強さはモンテカルロだけにとどまらずオジェは8回の世界チャンピオン、ローブは9回の世界チャンピオンを獲得している。過去18年間でこの2人以外のチャンピオンは2019年のオィット・タナックだけだ。
ラリー初日の夜のステージでオジェはローブに7秒ほどの差をつけ、3位以下は早くも10秒以上離された。誰もが手探りの状態で初めてのハイブリッドカーでの本番に臨んだとはいえ、やはり速いドライバーが速い。
2人のドライバー、そしてラリー1のヤリス、プーマに大きな差がないことは2日目以降のタイムで明らかだ。ローブは立て続けのベストタイムでオジェを逆転したかと思えば、今度はオジェが逆襲して再逆転というのがデイ2までの流れだった。
注目したいのは氷が路面にある区間でのタイム差だ。オジェはデイ1後半のSS5中間にあるブラックアイスのセクションで一気に15秒を失いローブの逆転を許している。大きなミスを犯したわけではない。しかし大きなタイムロス…速い区間では180km/hを超えるモンテカルロラリーだが、凍結路面では40km/hや50km/hがせいぜい。グリップしないドライ用タイヤの感触を探りながら、じりじりと進まざるを得ないこうした区間にこそモンテの魔物が潜むのである。
天はローブにだけ味方をしたわけではない。彼はデイ2の午前中にタイヤ選択をミスした上、ここだけは必ず雪があるというSS11、名物システロンの凍結路面でオジェに首位を譲った。さらに2度目のシステロン、SS13では、オジェに15秒の大差をつけられている。巡り合わせもあるが、デイ2を終えて首位オジェと2位ローブには21.1秒という大差がついていた。
デイ3、ラリー最終日ではローブには時間切れが迫ってくる。ところが運命のSS16でオジェはあろうことかパンク。35秒を失った。最後に残るのはSS17だけ。ここで10秒近い差は絶望的だが、再逆転に賭けるオジェは渾身のアタックを見せた。しかし気負いからかフライングスタートで10秒のペナルティ。これで勝負は完全に決まった。オジェのペナルティを知ったローブにもはや急ぐ理由はない。劇的な幕切れでローブはモンテカルロ8勝目を飾り、自身のWRC優勝回数を80とした。

ハイブリッドカーの実力

ハイブリッドブーストで500馬力とも言われるモンスター、ラリー 1は様々な面で意外だった。事前に過半数のドライバーは「急激にパワーが立ち上がるので御しにくい」とコメントを残していた。
しかし、ステージを走るラリー1にはかつてモンスターと呼ばれた1980年代のグループBのような凶暴さはない。スタート直後をのぞけば500馬力感に欠けるし、タイムもWRカーほど出ないようだ。これにはWRカーより100kg増という車重が効いているのだろう。重い上にラリー1はアクティブセンターデフが搭載されていないからか、ハンドリングも厳しく見える。
とはいえ、このマシンはまだ生まれたばかり。トリッキーなモンテカルロでは車よりドライバーの対応力が重要なだけに、まだその実力の片鱗を見せた程度である。実際、ラリー中のセットアップ変更があるのだろうが、各車が軒並み苦しんでいたハンドリングも後半は改善したように見えた。やはり実力を語るには、あと2、3戦は様子を見る必要があるのだと思う。

選手権争いの主人公たち

今回の優勝を争ったローブとオジェは年間を通してWRCを戦うわけではない。久々のWRC出場だったローブの次の出場イベントは決まっていないという。オジェもセミリタイアしただけに全戦参戦ではない。いわばパートタイムの2人に牛耳られたのがモンテカルロだが、今回のラリーでは第2戦スウェディッシュ以降で主役になるドライバーが見えてきた気がする。
リタイアするまで3位につけたトヨタのエバンスがスピードだけならレギュラードライバーの中で頭ひとつ抜け出している。エバンス脱落の後に3位に入ったフォードのブリーンも悪くない。そしてトヨタが推す若手ドライバーの筆頭、ロバンペッラは4位に入ると同時に3回のベストタイムで才能を示した。
フルワークスのトヨタに対し、半プライベートのようなフォードMスポーツも現時点ではトヨタに負けないマシンを準備できている印象だ。
気になるのはアダモ離脱後いまだにチーム代表が決まらず、今回も良いところなく終わったヒュンダイ。まともに走っている時のタイムは遅いわけではないが、ドライバーのコメントを聞けば車に自信を持てていないのが明白だ。そして今回のラリーでは細かなトラブルが立て続けに起きてしまった。スウェディッシュラリーまでは1ヶ月あるが、その間にどれだけ開発を進めて立て直せるかが見どころである。

ライター

川田輝(かわだあきら)

1960年生まれ
自動車雑誌の編集部員からオートテクニック、ラリーXプレスのジャーナリストになる。
アジアパシフィック選手権、PWRCのチームマネージャーを経てスズキWRTのチームマネージャーを務めた。
WRCは取材、チーム参戦で250戦ほど経験

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