比類無きサファリラリー
WRC第6戦サファリラリーは極めて特異なラリーだ。WRCはすべてのラリーが独自性を持っているが、その中でもアフリカで開催される唯一のWRCは巨大な岩や段差が点在し突如泥濘や川と化す路面など、自然と対峙するアドベンチャー的な要素を多分に持っている。
サファリはWRCの目玉イベントのひとつだったが、その特殊性が他のラリーとかけ離れていることもあり、長い間シリーズから外され、約20年の時を経て昨年からWRCに復活した。
サファリはかつて道路閉鎖しない一般車両も通行可能な道路CS(コンペティティブセクション)で競技を行い4000km〜5000kmを1週間近くかけて走るイベントだったが、再登場に当たってWRC標準の3日間の総走行距1,200Km、競争区間360KmのSS(スペシャルステージ)フォーマットとなっている。
しかし他のラリーとは比較にならないラフロードと急変する天候などドライバーたちが挑むアフリカの自然に変わりはない。
このイベントは日本車が強いことも特筆される。WRC 創設の1973年から2002年の間の30年で日本車が優勝したのは20回。その中でトヨタは8回の優勝を記録し、昨年のサファリで9回目の優勝を飾った。アフリカの王者と呼ばれる所以だ。
その変わらないアフリカの大地で王者は今年も圧倒的な強さを見せることになった。サファリラリーの伝統通り首都ナイロビのケニヤッタカンファレンスセンターをスタートしたラリーはSS1を行った後にラリールートの中心となるナイバシャへ移動する。
若手ロバンペラが円熟のラリー運び
初日デイ1を最初にスタートするのは選手権リーダーであるトヨタのカッレ・ロバンペッラ。一般的なスプリントのグラベルラリーとは異なりサファリでは必ずしも先頭スタートが不利なわけではない。あまりにも路面が荒れているため、重要なのはマシンを壊さずパンクさせないことだからだ。ただし、同時に可能な限り速く走るドライビングも求められる。安全とスピード…相反する二つの要素をバランスさせるのには経験が必要だ。だからサファリではベテランが好成績をあげることが多かった。
ところが最若手のロバンペッラはデイ1序盤の先陣争いの混乱の中、同じトヨタのエルフィン・エバンス、セバスチャン・オジェに続く3位をキープ。さらに4位には勝田貴元がつけ、トヨタは1-2-3-4体制を築くことになった。
対抗するはずのフォードはセバスチャン・ローブがデイ1序盤にしてマシントラブルのためにリタイア。ヒョンデ勢もオィット・タナック、ティエリー・ヌービルのエース2人が立て続けに起きたトラブルで後退していく。
荒れた路面と粒子の細かいダストなどマシンに厳しい条件のサファリだけに事前にマシンを作り込んでおくかが重要だが、以前のようにケニアに乗り込んでの事前テストは認められないため、本番では予期せぬトラブルも起きる。その中でトヨタの完成度は非常に高かった。
デイ1後半ではトヨタ勢同士のポジション争いとなり、オジェがパンクで後退したもののロバンペラ、勝田、エバンスの1-2-3でデイ1を終えた。
続くデイ2は今回のラリー最長だが、トヨタ優勢の状況は変わらなかった。序盤はエバンスが勝田を抜いて2位に浮上。さらに首位を狙うが追われるロバンペラはエバンスが詰めてきても無理をせずにマシンを温存できるペースを維持していた。まさにベテランの戦い方だが、それを実行しているのが21歳のロバンペラなのだから驚くべき自制心である。
一方、日本期待の勝田は追い上げてきたタナックと3位を争い、1周目のループ最後のSS10でパンクしてヒョンデのタナックに抜かれ、トヨタ勢の一角が崩れたかに見えたが、そのタナックはステージゴール後にリタイアして3位を維持。ところが次の2周目のループでは今度はヒョンデのヌービルが勝田に迫ってくる。このループ中盤は豪雨で路面のダストは泥濘状態。
氷のように極めて滑りやすい路面でロバンペッラは完璧なドライビングを見せ、エバンスとの差を30秒近くに広げた。ロバンペッラに続く2番手タイムはステージ終盤でパンクしたヌービルで、同じくパンクした勝田を抜いて3位に進出。トヨタ勢の一角は崩れたかに見えた。ところがデイ2最後のSS13でヌービルは立木に激突。これで再びトヨタの4台が上位を独占。ロバンペッラ、エバンス、勝田、追い上げてきたオジェの順で1-2-3-4体制を固めることになった。
トヨタが3度目の1-2-3-4フィニッシュを達成!
最終日デイ3は短いステージ距離であり、各車の差が開いてしまっているのでドラマは起きようがなかった。なにかあれば1分、2分の差は簡単にひっくり返ってしまうのがサファリだが、トヨタの4台はポジションを守ってフィニッシュ。トヨタにとって1-2-3-4は1986年コート・ジボアール、1993年サファリ以来3度目だが、いずれもアフリカで達成されている。
今回のラリーでは改めてロバンペッラの才能が光ることになった。速く走るだけでは勝てない。戦略の組み立てや自制心など精神面での成熟も求められるイベントを若手が難なく勝ったことは特筆すべきことだ。そしてほとんど大きな問題を出さずに走りきったトヨタの車作りもまた賞賛すべきものだった。まさにアフリカの王者の面目躍如である。
ライター
川田輝(かわだあきら)
1960年生まれ
自動車雑誌の編集部員からオートテクニック、ラリーXプレスの
ジャーナリストになる。
アジアパシフィック選手権、PWRCのチームマネージャーを経て
スズキWRTのチームマネージャーを務めた。
WRCは取材、チーム参戦で250戦ほど経験