World Rally Championship

Race Report

Round 07

7戦5勝。ロバンペッラに死角なし

WRCとエストニア

エストニアという国を思うとき、頭に浮かぶのはマルコ・マルチンであり、オイット・タナックというトップドライバーたちだ。WRC開催はまだ3年目とはいえ、世界選手権で勝利をあげたドライバーたちを筆頭にその歴史は様々な物語に彩られている。ソ連邦時代からラリー選手権が開催され、1991年の独立以降、エストニアは才能あるドライバーを送り出し続けている。さらにトヨタワークスチーム、GazooレーシングWRTがメインテナンスガレージを開設するなど、かつての遠い国のイメージは払拭されて現代のWRCとエストニアは密接な関係だ。
そのエストニアで開催されるWRCは世界選手権でもっとも若いイベントのひとつでありベルギーのイープルと共に皮肉なことにCovid-19ウィルスの世界的感染によってWRC開催が実現している。パンデミックによってヨーロッパ外のイベント開催が大幅に制限される中、FIAが開催可能なラリーでシリーズを再編した結果、2020年のWRCに登場したのがエストニアだった。
フィンランド湾を挟んでラリー王国フィンランドから100キロも離れていないエストニアだが、そのコースはフィンランド同様に高速。ただし道幅が狭い上にフィンランドほど路面が硬くない。さらに次々と出てくるジャンプの角度がきつく大ジャンプの着地では腰を痛めるドライバーが続出するなど、このラリーを2018年から3年連続で制したのが地元のタナックであることからも分かる通りコースへの習熟が必要なラリーだ。

ローカルヒーローvs.チャンピオン候補

昨年、そのタナックの4連覇を阻止してWRC初優勝を飾ったのが今年の選手権争いをリードするカッレ・ロバンペラだった。ロバンペラはフィンランドで成長したが14歳からは免許が不要でエストニアと隣り合わせかつ似た性格のステージを持つラトビア選手権に参戦している。
彼のためのイベントとも言えるこのラリーでタナックが昨年の雪辱を果たすのか、よりパワフルなエンジンになったというアップデート版のヤリスラリー1を駆るロバンペラが優勝記録を伸ばすのか、エストニアの優勝争いはこの2人に絞られた感のラリー前の予想だった。
ところが予想を覆して初日デイ1で飛び出したのはトヨタのエルフィン・エバンスだった。砂利が多いエストニアで後方スタートを利してラリー最長となるデイ1最初のループ全てで最速タイムを叩き出す。様子が変化し始めたのはデイ1の2周目のループ。最初の周回で砂利掻き役となっていたロバンペラが雨の降り出した3つのSSで最速タイムを出し、そして土砂降りとなった最終SS9でエバンスはコースアウトして守ってきた10秒以上のリードを吐き出し、ロバンペラが首位に立った。
今年のグラベルラリーのパターンは驚異的に速いロバンペラが不利な走行順になるデイ1でどれだけタイムロスするかがひとつの注目点だが、その不利を跳ね返して彼はデイ1にして早くも最も優勝に近い位置に立つことになった。対抗馬とみられていたローカルヒーロー、タナックは序盤こそ先頭に争いに加わっていたが、セッティングが合わずにずるずる遅れ、さらに今年度から採用されたエンジンを切りモーターだけで走行を義務づけた「電動モード区間」でエンジンを切らずに走ったために10秒のペナルティを受けて3位にはいるがロバンペラからは44秒も遅れてしまっていた。
そして今回のラリーでもロバンペラの勝ちパターンは変わらなかった。後方の走行順となりハンディのなくなったデイ2では9か所のSS中7か所で最速タイムを出した彼は2位に踏ん張るエバンスに30秒近い差をつける。この時点で勝負は決まった。
最終日もロバンペラのペースでラリーは展開し、後半はパワーステージを前にペースダウン。そして圧倒的なスピードで最終パワーステージを制したロバンペラの勢いはもはや止める者もいないかに見える。

ロバンペラの独走と選手権の行方

必ずしもすべてのトヨタが速いわけではなく、ヒョンデも対抗できるスピードを見せることはある。しかし、それが長くは続かない。その多くはマイナーなトラブルに起因するものだったり、テスト不足だったりするものだけに惜しい。タナックは「現状では戦えるレベルにはない。しかしやるべきことは分かっている」と語るが、そのやるべきことをやることが実はもっとも難しい場合もある。
第7戦エストニアを終えて、ドライバーズ選手権では5勝のロバンペラが175ポイント、2位のヌービルは92ポイント。マニュファクチュアラーズ選手権ではトヨタ298ポイント、ヒョンデが211ポイント。マニュファクチュアラーズ選手権はともかくドライバーズ選手権は大勢が決まりつつある。そして次のラリーはロバンペラが得意とする彼の地元フィンランド。さらにどちらかといえばトヨタのドライバー向きのラリーがシリーズ後半には続く。ワンサイドゲームになりつつ2022年のWRC。後半戦のヒョンデ勢の巻き返しにも期待したいところだ。

ライター

川田輝(かわだあきら)

川田輝(かわだあきら)
1960年生まれ
自動車雑誌の編集部員からオートテクニック、ラリーXプレスのジャーナリストになる。
アジアパシフィック選手権、PWRCのチームマネージャーを経てスズキWRTのチームマネージャーを務めた。
WRCは取材、チーム参戦で250戦ほど経験。

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