カッレ・ロバンペッラが今年の王座に登り詰めるとはシーズン前に誰が想像しただろう。WRC優勝経験のあるハリ・ロバンペッラを父に持ち、異例の14歳でのラリーデビューから8年。19歳で最年少ワークスドライバーとなった彼は昨年WRC史上最年少ウィナーとなった。それから1年。シーズン前半から破竹の快進撃を見せた彼はわずか22歳と1日で王座獲得を果たし、コリン・マクレーの27歳109日を大幅に上回る史上最年少のWRCチャンピオンとなったのである。
ニュージーランド ―ドライバーの天国
2022年のWRCでヨーロッパ外イベントは3戦のみだが、その2戦目がニュージーランドとなる。同国のナンバーワンスポーツは言わずと知れたオールブラックスに代表されるラグビー。それに続くのがヨットのアメリカスカップと負けず劣らずの人気を持つラリーだ。
1970年代からWRCとして開催されてきたニュージーランドラリーの歴史は古いが、2012年を最後にWRC開催がなくなり、復活予定だった2020年はコロナ感染症の拡大で中止。それから2年。ようやく10年ぶりにWRCに戻ってくることになった。
このWRC復帰は多くのドライバーが熱望したことだった。ニュージーランドのステージは世界最高のグラベルロード。固くスムース路面と低速から高速までチャレンジングなバンクのついたコーナーの数々では、マシンのダメージやパンクの心配なく思う存分マシンを振り回すことができる。かつてヴァルター・ロールやハンヌ・ミッコラという偉大なチャンピオンが「ドライバーの天国」と語ったステージがWRCに還ってくるのだ。
タナックが望みを託して全開アタック
オークランド市内にあるドメイン公園でのスーパースペシャルを走ったラリーカーは、全SS距離の6割を走るワイカト地域のデイ1に挑む。名物ステージ、ファンガコーストを始めとするロングステージが連続するこの日はサービスがなく、タイヤ交換だけが認められる厳しい条件だ。
雨交じりとなった天候の下、ロバンペッラ唯一の対抗馬、ヒュンデのオイット・タナック、フォードのガス・グリーンスミス、クレイグ・ブリーンらが好タイムの応酬で序盤の先頭を争う。先頭スタートがさほど不利ではないニュージーランドだが路面の泥の影響もあり、ロバンペッラは6番手。初日は耐え、デイ2以降で挽回する戦いを強いられてきたロバンペッラにとって、デイ1の比率が高い今回のラリーの構成は望ましいものではない。
雨が強まったデイ1の2周目、首位を争うブリーンがコースアウト。5位にいたスポット参戦のセバスチャン・オジェが一気に首位に浮上した。2位にはエルフィン・エバンスがつけトヨタが1-2という1周目と全く異なる展開。一方首位にいたタナックは3位へ後退。
しかしデイ1最終ステージではタナックが最速タイムの逆襲で首位を奪い返す。2位はエバンス、3位はオジェ、そして2周目のループでタイムを上げたロバンペッラが4位とトヨタ勢が食い下がる結果でデイ1は終了した。
ロバンペッラが首位浮上で王手!
7秒あまりにトップ4台が犇めくことになったデイ1で優勝争いは絞られ始めたが、トップグループ同士の激しい戦いはデイ2も続いた。オークランド北方を舞台にするこの日は雨が降り続き、滑りやすい路面にアクシデントが続く。
デイ2開始前には初日のスーパースペシャルで規定以上のハイブリッドブースト使用によってヒョンデのタナック、ヌービル、トヨタのロバンペッラに5秒のペナルティを与えて順位の変動があったが、ステージではそれ以上に激しい順位の変動が起こる。
土砂降りの1周目のループではエバンスが転倒。さらにグリーンスミスがクラッシュして戦列を去り、混乱の中でプッシュしたロバンペッラが一気に首位を奪取。この後、デイ1のSS7でもハイブリッドブースト違反があったとして、ヒョンデのドライバー3人に10秒のペナルティが課せられたことでタナックはオジェに2位のポジションを譲り3位後退。さらにタナックはタイムを落としてずるずる遅れてしまう。
デイ2を終えて首位のロバンペッラに29秒差でオジェ。さらに17秒差でタナック。1秒単位で争う中、トータル15秒のペナルティは重く、短い最終日を考えれば、王座争いの大勢は決しつつあった。
パワーステージ制覇のロバンペッラに死角なし
最終日デイ3は二つのステージを2周するだけの短い一日。タナックにとってわずかな希望は前を行く2台に何かが起こることだが、差はほとんど変わらないまま最終ステージ、ジャックス・リッヂを迎えた。タナックはここで最速タイムを出し、わずかな望みをつなぐしかないが、彼がステージをフィニッシュした時点では狙い通り最速タイム。しかし続けて走るロバンペッラは安全策を採らずに王者獲得を確実にするための全開アタックで最速タイムを更新! 自身の王者決定のラリーを最高の形でフィニッシュすることになった。
セバスチャン・オジェという絶対王者の引退により、戦国時代に突入するかに思えたWRC。しかしロバンペッラの才能は群を抜いていることが証明されたのが2022年のシーズン。今シーズ残された2戦、そして来年以降で彼の記録はどこまで伸びていくのか。2000年10月1日生まれ、まだ22歳の彼には無限の可能性が広がっている。
ライター
川田輝(かわだあきら)
1960年生まれ
自動車雑誌の編集部員からオートテクニック、ラリーXプレスのジャーナリストになる。
アジアパシフィック選手権、PWRCのチームマネージャーを経てスズキWRTのチームマネージャーを務めた。
WRCは取材、チーム参戦で250戦ほど経験