コラム
自動車産業のカーボンニュートラルにおける 素材循環の重要性:製造・リサイクル・LCAの視点から
2026/07/14
2050年のカーボンニュートラル実現に向け、ものづくりにおける環境対応のあり方が見直されています。これまで注目されがちだった「使用時」の環境負荷だけでなく、素材の製造から廃棄、再資源化に至る「ライフサイクル全体を評価するライフサイクルアセスメント(LCA)」を俯瞰する視点が、重要となっています。
本稿では、各素材が抱える軽量化とリサイクルのジレンマや資源循環の法的・技術的障壁、そしてこれからのものづくりが向き合うべきサーキュラーエコノミーの本質についてできるだけわかりやすく整理しました。
自動車産業のカーボンニュートラルにおける
素材循環の重要性:製造・リサイクル・LCAの視点から
地球温暖化は「地球沸騰化」と称される深刻な局面にあります。CO2排出抑制に向け、先進国は2050年のカーボンニュートラル実現を掲げており、自動車産業でも電動化(EVシフト)が推進されています。しかし、自動車の環境対応は走行時のみに留まりません。真のカーボンニュートラル実現には、素材の製造から廃棄、再資源化に至る「ライフサイクル全体」を俯瞰した戦略が大切です。
EVシフトの背後に潜む「製造時」の課題
走行時に排気ガスを出さないEVですが、電池製造やレアメタル加工の負荷により、製造過程では従来のガソリン車の2倍近いCO2を排出するとの指摘があります。また、燃費(電費)向上のためのアルミニウムやプラスチック、複合材といった「軽量化素材」も、製造時に多大なCO2を排出します。動力源が電力へ転換される中、素材製造時の排出割合は相対的に高まっており、この領域の対策は避けて通れません。
各素材が抱える課題:軽量化とリサイクルのジレンマ
軽量化材料は走行時のCO2を減らす一方、単位重量あたりの製造時CO2排出量は増加する傾向にあります。図1に、主要素材の製造時およびリサイクル(焼却)時のCO2排出原単位を示します(各国の事情による概略値であり、素材ごとの軽量化効果は未算入)。
図1から、従来の「鉄」に比べ、アルミニウムやCFRP(炭素繊維複合材料)は製造時の排出が著しく大きいことが分かります。例えばアルミニウムは水力発電主体の国で製錬すれば低炭素ですが、日本の主な輸入先(UAE、豪州、中国など)は化石燃料由来の電力が多いため、図1はそれを反映した平均値を示しています。このように素材製造時の負荷が大きい中で、今後、EVの走行時CO2がゼロに近づくほど素材製造時の比率は増すため、適切な資源循環がなければ「軽量化でかえって総排出量が増える」事態になりかねません。

図1 各素材(バージン材、リサイクル材)の製造時、焼却時のCO2 出典:日経XTECH「LCAで逆風のCFRP・アルミ」(2021年5月11日),一般社団法人日本アルミニウム協会「アルミニウムVISION2050」(2020年5月)等を参考に筆者作成
「廃棄物対策」から「炭素循環」へ:リサイクルの新たな定義
製造時の負荷が高いからこそ、使用済み自動車(ELV)の資源循環が鍵となります。
アルミニウムは、バージン材製造には膨大なエネルギーを要しますが、リサイクルは再溶解だけで済むため、図1の通り圧倒的に有利です。一方、高い軽量化効果を持つCFRPは、現状の炭素繊維製造時のCO2排出量が非常に大きく、熱源の電化など技術革新が急務です。
また、プラスチック(図1では代表例のPP:ポリプロピレンを例示)は、最終的に焼却(サーマルリサイクル)するとすべてCO2に変わります。リサイクル材(図1のリサイクルPP)であっても、最終的に焼却処分されれば同様にCO2が発生するため(図1の点線部)、ゴミ削減に留まらない「炭素を排出しないリサイクル」への進化が求められます。
資源循環の法的・技術的障壁
しかし、こうしたマテリアルリサイクルを進める上での最大の障壁は、不純物混入(コンタミ)による品質低下です。特にプラスチックは金属に比べ品質維持が難しく、マテリアルリサイクルは容易ではありません。しかし、欧州でのELV規制法制化など、対応は必須であり、品質劣化の少ない「ケミカルリサイクル」への期待が高まっています。ただし、原料近くまで戻すプロセスには多大なエネルギーを要するため、その効率性を厳密に見極める必要があります。
バイオプラスチックはカーボンニュートラルの救世主になるか:LCAの重要性
また、資源循環(リサイクル)と並ぶカーボンニュートラルの解決策として注目されるのが、植物由来のバイオプラスチックです。これは植物の成長時のCO2吸収により、焼却時も収支ゼロになると理解されがちです。しかし、植物の育成から原料抽出、合成までの各工程で発生するCO2は排出の「増加分」となります。これが削減効果を上回ればカーボンニュートラルへの寄与は限定的です。「バイオ=環境優良」と短絡的に評価せず、厳密なLCAに基づく定量的な評価の視点が求められます。
最後に
自動車の軽量化や機能性向上にプラスチック等の素材は欠かせません。しかし持続可能な発展には、「モノの循環」に留まらず、構成要素である「カーボン(炭素)」そのものを社会で循環させる必要があります。資源循環のために膨大なエネルギーを消費し、CO2を増やしては本末転倒です。「サーキュラーエコノミー」と「カーボンニュートラル」は不可分な両輪であり、ライフサイクル全体を俯瞰した総合的な視点でこれからの自動車技術を検討していく必要があります。
【編集後記】
これからの時代は、単にゴミを減らすリサイクルに留まらず、「炭素を排出しないリサイクル」や「効率的な炭素循環」をいかに社会の仕組みや技術として確立していけるかが重要になります。資源を循環させるためにCO2を増やしては本末転倒だからこそ、確かなデータに基づく本質的なアプローチが求められます。
執筆者
大庭 敏之
日本合成ゴム(現 JSR)を経て、1976年に日産自動車へ入社。材料研究・材料開発・品質対応に長年従事し、リサイクルや環境技術にも取り組む。自動車工業会での委員会活動や東京理科大学での非常勤講師も務めた。2012年退職後は「大庭塾」を主宰し、講演や若手技術者の育成に注力している。
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