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コラム

自動車部品のモノマテリアル化に向けたポリプロピレンの材料設計

2026/07/30

自動車における「プラスチック資源の循環(リサイクル)」が急務となる中、部品を単一の素材で構成する「モノマテリアル化」が大きな注目を集めています。中でも自動車用の樹脂部品としてもよく使われているポリプロピレン(PP)は、リサイクル効率の向上に寄与する技術の一つとして期待されています。しかし、高い信頼性や厳格な品質管理が求められる自動車分野において、単に回収して再利用するだけでは、品質保証やトレーサビリティの観点で課題が残ります。本記事では、PPの高度な構造設計から最新の相溶化技術まで、その課題と取り組みをわかりやすく解説します。

自動車部品のモノマテリアル化に向けたポリプロピレンの材料設計

自動車の歩みとポリプロピレンに求められる新潮流

PPの日本国内での生産は1962年に始まり、初代トヨタカローラ以降、自動車分野への採用が急速に拡大しました。物価補正した重量単価で見ると1995年頃までは実質的に安価になっていましたが、その後の安全基準厳格化や電子化、さらにハイブリッド車(HEV)や電気自動車(EV)への移行に伴い、モデルチェンジごとに上昇が続いています。これまで着実なコストダウンを続けてきたPPですが、現在はカーボンニュートラル対応という新たな課題に直面しています。元来、PPは物性の制御幅が広く多種多様な部品に使われるため、現実性を鑑み、PPへの材料統一が進めば、同種材料として再利用しやすくなり、水平リサイクルの実現可能性が高まると考えられます。

図1 代表的な国内乗用車の車体重量と販売価格から求めた乗用車1台のkg単価の推移、およびkg単価の補正に使用した東京都区部消費者物価指数 (2020年基準総合)                            データ出典:国内自動車メーカーが公開する同一車種の各年カタログ、総務省統計局 「消費者物価指数(2020年基準)」をもとに筆者作成。

品質保証とトレーサビリティの壁

しかし、自動車用PPは自動車産業に特化した国際的な品質マネジメントシステム「IATF16949」のもとで厳格に管理されており、サプライチェーン全体の厳密なトレーサビリティが必要です。単に試験スペックを満たすだけでは不十分であり、市場から回収した素性の分からないPPをそのまま使用することは困難です。この再生材料の品質を誰がどのように保証するのかという課題の解決が、モノマテリアル化を実現するための鍵となります。

PP自体の多様性と相構造の不安定さ

市販のPPはホモ、ランダム、衝撃(インパクト)タイプに分類されます。自動車用途で多用される衝撃PPは、ホモPPに連続してエチレンプロピレン共重合体(EPR)を逐次重合させたものです。同じポリオレフィンであるポリエチレン(PE)とは異なり、PPは側鎖にメチル基を持つため立体規則性が生じますが、リサイクルを前提とするならば、今後は平均的な立体規則性をベースにした柔軟な材料設計が必要となります。また、衝撃PPにおけるEPRの相構造は比較的不安定であり、加工時の加熱溶融時間が長くなると、初期ペレットで微細分散していた粒子が成形品中で凝集し、アメーバ形状に変化する性質があります。このように様々に分岐したPP系材料を寄せ集め、商業的な二軸押出機などを用いて一つの安定した再生材に再統合できるかが、現在の重要な命題です。

衝撃PPが内包するEPRを活かした相溶化

そこで、衝撃PPの中に最初から内包されているEPRの不均一性を利用するアプローチが注目されています。チーグラー・ナッタ触媒で重合されるEPRは、分子量ごとにエチレン含量の幅が広いという、非常に不均一な組成を持っています。このうち低エチレン型の成分はマトリクスに部分的に溶け込むため、引張伸びを高めるだけでなく、リサイクル時には優秀な「相溶化剤」として機能することが期待されます。自動車には燃料タンクのようにPEが不可欠な部品もありますが、リサイクル時に5 wt%以下の微量なPEが混入する程度であれば、EPRの組成分布と分子量を最適化することで相溶化剤として働かせ、リサイクルの許容幅を広げられる可能性があります。

材料の「タフさ」を支えるエラストマーとタルクの役割

外部からエラストマーをブレンドして改質する手法では、成形加工時の流動停止後に秒単位で発生する相分離をいかに制御するかが重要になります。これに対して、組成を制御した高分子量EPRをマトリクス側に適度に相溶させれば、優れた流動性を維持したまま微分散形態を維持できる可能性が示されています。 このような分子設計によるアプローチだけでなく、剛性を支える充填材であるタルクの活用も、相分離を抑える上で重要な要素の一つです。タルクには、結晶化を高める造核作用と、強度に有利な「b軸配向」へ導く作用があります。さらに、タルクの存在自体が流動停止後のエラストマーの相分離を物理的に抑制し、耐衝撃性を担保していることも分かっています。今後は、調達リスクのあるタルクに代わる高性能な次世代フィラーの開発が、技術進展の鍵となるでしょう。

ガラス繊維強化PP(GF-PP)における長期耐久性の確保

一方で、高温・高荷重下で長期間使用されるGF-PPのリサイクルには、特有の難しさがあります。ペレット内に一度混練されたGFは、再度の溶融混練時における繊維長低下自体は少ないものの、実用上のネックは長期の耐久性にあります。GF-PPは通常、カーボンブラックで黒く着色されますが、これにより耐熱老化性が低下するほか、市場回収品に酸化チタンのような硬度の高い無機物が混入していると、加工時にGFの破断が生じやすくなり、物性低下の可能性があります。したがって、日々の短い生産管理だけでは確認できない長期耐久性を担保するためにも、徹底した品質管理とトレーサビリティシステムの裏付けが不可欠なのです。

非相溶なPPとPEを繋ぐマルチブロック共重合体

また、リサイクル時に最も混在しやすいPPと高密度ポリエチレン(HDPE)は本来完全に非相溶であり、融液が接触する界面でも互いに一切相互作用せずに独立して結晶化してしまいます。これを解決するために、かつては様々な相溶化剤が検討されたものの、コスト面から自動車用途への適用は困難でした。しかし、近年の触媒技術の進歩により、PPと相溶するセグメントを結晶性のアイソタクチックPP(iPP)へと進化させた「iPP-HDPEマルチブロック共重合体」が技術的に開発され、両者を技術的に相溶化させることが可能になりました。今後は、これを自動車産業で受容できる商業的なコストで大量生産できるかが焦点となっています。

モビリティの未来トレンドがもたらす追い風

これから先の自動車業界におけるEV化や自動運転・AI化といったトレンドは、アンダーフードの最高温度の低下や衝突リスクの大幅な低減をもたらし、結果として自動車用PPの要求性能をマイルドな「平均的な物性」へと緩やかに収斂させていくと予想されます。性能要求が平均化することは、回収した多様なリサイクル材料の受け入れ窓口が大きく広がることを意味し、水平リサイクルにとって強力な追い風となります。さらに、成形性を自動調整するMFR制御技術なども開発されており、適切な相溶化技術や次世代フィラーを組み合わせることで、PPのモノマテリアル化とマテリアルリサイクルの実効性の向上が期待されます。

【編集後記】
自動車部品のモノマテリアル化、およびPPの水平リサイクルは、一筋縄ではいかない高度な技術的挑戦です。しかし、マルチブロック共重合体をはじめとする高分子化学の飛躍的な進歩や、EV化や自動運転・AI化といったモビリティの変化は、プラスチック資源循環を現実のものにする強力な推進力となっています。
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旭化成のポリプロピレン複合材料「Thermylene®」は、ガラス繊維含有量や各種性能を用途に応じて調整でき、自動車部品の軽量化や金属・エンジニアリングプラスチックからの代替に貢献します。製品詳細はこちらのページをご覧ください。

執筆者

小林 豊

SPE日本支部 理事

出光興産株式会社(1985~2021年)にて、ポリプロピレン系の自動車材料の開発に従事した。この間、博士(理学)を取得、株式会社プライムポリマーおよび米国Advanced Composites Inc.に出向した。その後、山形大学(2021~2026年)にて、海洋生分解性高分子の開発、および、プラスチックのマテリアルリサイクルの研究に従事した。2026年よりSPE日本支部にて庶務担当の理事をする傍ら、企業向けに技術コンサルタントをしている。

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