コラム
自動車に関わる規制動向と車両の軽量化への技術動向
2026/04/07
自動車を取り巻く環境規制や電動化は、いま大きな転換期を迎えています。特に、ライフサイクル全体での環境負荷削減が求められる中で、材料選択や車体構造のあり方はこれまで以上に重要になっています。
本記事では、日産やBMWで車両開発を牽引し、現在は山根健オフィスを主宰する山根健氏が、規制動向から軽量化技術、新材料への期待までをわかりやすく解説します。
自動車に関わる規制動向と車両の軽量化への技術動向
自動車は20世紀後半からはOECD各国にも急速に普及し、経済発展を牽引してきました。しかしその一方で、大気汚染や交通事故、資源の大量消費、さらには地球温暖化といったさまざまな課題の要因ともなってきたことも事実です。こうした背景から、自動車に関する国際的な規制づくりが加速し、世界的な共通課題として捉えられるようになりました。
温暖化物質削減に向けた国際的な取り組み
特に、近年大きなテーマとなっているのが、温暖化物質の削減です。地球温暖化とそれによる気候変動の原因が、化石燃料の燃焼による二酸化炭素をはじめとする「温暖化物質」の排出にあると指摘されました。そのため、排出規制に関する国際的な枠組みが整備され、産業革命後の地球平均温度上昇を抑えることを共通目標にして、各国がその実現に向け取り組んでいます。2015年のパリ協定(1.5℃目標)を受け、EUは2019年の規則「Regulation (EU) 2019/631」に従い、2025年までのLCA(Life Cycle Assessment)手法策定を目指しています。2026年以降は自主報告が可能になる見込みですが、走行時のCO2排出基準である従来のT2W(Tank to Wheel)基準も引き続き併用される方針です。
電動化の加速とその課題
こうした流れの中で、自動車の電動化も大きく進んできました。リチウムイオン電池の開発が進み、90年代にモバイル用途で実用化され、2010年前後から車載主電源としての採用が始まると、CO2排出規制などを追い風に普及が進んできました。
2010年頃のBEV(バッテリー式電気自動車)は、従来の内燃機関搭載車をベースとして電動システムに換装するものが多く、重く大きな電池をどのように搭載するかが課題となっています。また、最低限の実用航続距離を確保するのに必要な電池の重量は車両重量の20~30%に達する場合もあり、重量も価格も増加してしまうという課題を抱えています。
ライフサイクル全体で考える環境評価
これまでEV推進一辺倒だったEUは、2019年に入ると、それまでの走行時のCO2排出削減から、エネルギー源採掘から走行までのCO2排出(Well to Wheel=W2W)削減へ、さらには自動車及び動力源の製造から使用、廃棄、再利用に至るすべてのプロセスにおけるCO2排出(LCA)で評価すべきと大きく舵を切りました。これを受けて、2050年のカーボンニュートラル(CN)実現に向けた成長戦略「欧州グリーンディール」が発表されました。
2020年3月に発表された新循環経済行動計画では、自動車から排出される温暖化物質を定量評価するとともに、使用材料のをCN視点での評価することが求められています。さらに、リサイクル性とリサイクル材の行先までを評価し、管理しなければ実効性がないため、「すべてのプロセスを明らかにしたうえで最善の解を目指す」ことが必要であると定められました。
車体軽量化のための材料転換
自動車そのものの課題としては、車体の軽量化が大きなテーマです。
特にBEVでは、バッテリーが車両重量の大きな割合を占めており、車両の軽量化が高価なバッテリーの必要搭載量を減らすことにつながります。
現代の自動車の基本構造材料は鉄鋼材ですが、高張力鋼、アルミニウムなどの軽合金、プラスチック、炭素繊維強化樹脂(CFRP)などの軽量材料の採用が広がってきました。しかし、それらの材料はコストが高く、加工性や量産性などの課題があり、部位ごとに最適な素材を採用する「マルチマテリアル」車体化が進んでいます。
これに伴い、異種材料同士を確実に接合する技術が不可欠となっています。加えて、複雑形状を容易に量産できる樹脂材料の特性を活かし、高強度プラスチック、繊維強化プラスチックを使った車体構造部材の採用が段階的に広がっています。また、植物由来のバイオプラスチックなど、環境負荷の小さな材料の採用も段階的に広がりつつあります。
新材料への期待
今後、さらなる二酸化炭素削減が要求され、軽量化の要求はますます強くなるでしょう。従来の材料と新材料との競争もさまざまな形で展開されます。
従来車ではコスト面では採用が困難な新材料が、新しいコンセプトで作られる車では様々な機能や製造時の環境面でのメリットを生かせる可能性があります。この自動車開発には、自動車メーカーの車両設計、材料開発、製造技術部門、材料メーカー、主要部品メーカーおよび研究機関がコンセプト段階から密接なコミュニケーションをとり、最良の材料選択を行う必要があります。
【編集後記】
今回の記事では、自動車の環境規制や軽量化技術の変化を、山根氏の豊富な経験に基づく視点でわかりやすく整理していただきました。材料選択や設計思想が環境評価と密接につながる今、サプライチェーン全体での連携がますます重要になることを改めて感じます。
執筆者
山根 健
1975年に日産自動車へ入社し、中央研究所で新型エンジンやターボ過給機の研究開発に従事。高性能エンジン開発のサブリーダーを経て、レース用エンジン開発課長などを歴任。1981~1983年にはロンドン大学インペリアル・カレッジへ留学。
1992年にBMW Japanへ入社し、日本向け車両開発を統括。後にドイツ本社の各種パワートレインや新コンセプト車両の開発、さらにF1を含むレースエンジン開発にも参画した。
2009年に同社を定年退職後、山根健オフィスを設立。BMW Japan技術顧問として電気自動車開発などを受託するほか、大学での非常勤講師、技術コンサルタント、モータースポーツ関連業務など幅広く活動している。
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