コラム

自動車部材における発泡ポリプロピレンの今後

2026/10/02

車両の電動化が進む中、バッテリー搭載などに伴う車両重量の増加を背景に、自動車部材には一層の軽量化が求められています。こうした課題への対応策の一つとして、樹脂部品の軽量化技術が注目されています。本記事では、長年にわたり軽量化に貢献してきた発泡ポリプロピレン(PP)に着目し、成形加工法の変遷や材料開発の現在地について、SPE日本支部の小林豊氏が解説します。

自動車部材における発泡ポリプロピレンの今後

合成樹脂の発泡体は、ポリスチレン発泡体をはじめとして身の回りに数多く存在しています。その基本的な製造技術は1970年代までにはほぼ確立されており、自動車部品における技術的な進化は主に加工技術の工夫が中心となってきました。一方で材料面に目を向けると、発泡用途に適した高溶融張力ポリプロピレンの生産が拡大するなど、新たな動きが見られます。自動車向け発泡部品の歴史を振り返りながら、今後の技術動向について解説します。

燃費・安全規制が推進したPP発泡の歴史

自動車部品においてPP発泡技術が採用・拡大した背景には、1980年頃から強化された燃費規制や安全規制があります。それ以前のクッション材や衝撃吸収材はウレタンフォーム(UF)が主流であり、耐水性を要する部位にポリエチレン(PE)フォームが使われていました。PPはUFの一部を代替する形で導入が進みましたが、内装材などでは当初、射出成形で作られたソリッド部品が中心であり、その後の軽量化要求に応じて「射出発泡成形」が適用されていきました。
一方で、大量生産される構造部材として本格的にPP発泡体が採用された代表例が、5マイルバンパー用のエネルギー吸収体(EA)です。これには国内で開発された「PPビーズ発泡体」が使用されました。当時の特許(特開昭60-110734)にも示されているように、ガスが抜けやすいPPに発泡剤を含浸・保持させるための、ポリスチレン(PS)とは異なる独自の製造ノウハウが重要な要素となりました。PPビーズ発泡成形技術は現在も自動車リアシートのクッション材として、UFを代替しながら活用されています。

複合化と成形加工法による技術の進化

PP発泡の基本的な要素技術は、1970年代に発行された発泡技術の専門書[1] [2]などに記載されている電子線架橋PPシートや押出発泡の技術と、根本的な原理は現在も受け継がれています。近年の進化における大きなポイントは、「複合材料」と「成形加工方法」の組み合わせにあります。
例えば、ガラス繊維(GF)と発泡を複合させたシート材は、自動車の成形天井に採用されています。また、樹脂ペレットに化学発泡剤(CBA)を混練し、一般の射出成形機で低倍率発泡を行うストラクチュラル・フォーム(Structural foam)が用いられているほか、高倍率発泡が必要な分野では超臨界炭酸ガスなどを注入する技術などが活用されています。さらに内装の表皮貼合においても、基材の発泡成形と表皮材の加飾を同時に行う一体成形加工法などが各部品メーカーから開発されています。こうした工程の複合化により、製品機能と加工コストの両立が図られています。

発泡成形用PP材料の進化と材料開発

PSはガスバリア性が高いため未架橋でも高倍率発泡が可能であり、PEは架橋して溶融張力を高めてから発泡させます。これに対し、PPは歴史的に化学架橋が困難であったため、電子線架橋を利用して高倍率発泡を行ってきました。しかし、ペレット状態での溶融加工では十分な架橋密度を得にくく、逆に過度な架橋は溶融混練時の分散を難しくして成形性を悪化させる要因となります。
この課題に対し、海外の素材メーカーは化学架橋の原理を応用しつつゲル分を低減し、高溶融張力と流動性を両立させた「実質的な長鎖分岐型ポリプロピレン(LCB-PP)」を製品化しました。2026年にはこのLCB-PPの第2工場を稼働させ、供給量を拡大する計画です。また国内でも、メタロセン触媒を用いたマクロモノマー法によるLCB-PPが製造されています。射出発泡用途ではPPに適度な流動性が求められるほか、ストラクチュラル・フォーム用途では機械物性を高めるためのエラストマー強化やフィラー強化が施され、各成形機や用途に合わせた専用グレードとして展開されています。

今後の自動車発泡部品の方向性

自動車分野では、新規の材料や成形加工法の導入には評価・検証に時間を要するため、それらを上回るメリットが求められます。当面は既存のビーズ発泡、押出発泡、射出発泡、発泡シートスタンピングが適材適所で活用されると考えられます。
今後の方向性として重要視されていくと考えられるのが、「マテリアルリサイクルへの適性」です。前述のとおり架橋密度が高すぎると溶融混練時の分散性が損なわれるため、リサイクル性を考慮した材料設計が求められます。また、スタンピング成形における端材の低減など、製造時の歩留まり改善も課題となります。
こうした環境面・コスト面での課題解決に加え、意匠面での要求も高まっています。安全要件の制約が比較的少ないガーニッシュや表皮部品においては、さらなる軽量化と外観品質の向上をいかに両立させるかが、今後の重要な開発課題の一つとなるでしょう。

【参考文献】
[1] 牧廣、小坂田篤『プラスチックフォームハンドブック』日刊工業新聞社、1973年
[2] Kurt C. Frisch、James H. Saunders『Plastics Foams』Marcel Dekker Inc.、1972年

【編集後記】
自動車の電動化や環境対応が進む中、樹脂部品に求められる性能要件も多様化しています。完成した車両からは見えにくい内装の裏側や構造部材ですが、1970年代までには確立されていた基本原理をベースに、材料の複合化や独自の成形加工法などさまざまなアプローチから開発が進められています。普段何気なく目にしている自動車用プラスチック部品の裏側に、どのような技術や歴史が詰まっているのかを知るきっかけになれば幸いです。

【関連製品情報】
発泡体技術は、自動車の軽量化や高機能化において重要な役割を担っています。旭化成では、発泡体を活用したソリューションとして以下の製品を展開しています。

■サンフォース®
高難燃性で高耐熱・高強度を併せ持つ発泡構造体として、自動車のあらゆる部位での軽量化・高機能化に貢献できます。
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■ネオマ®フォーム
断熱性・耐燃焼性、加工性に優れ、軽量性と高強度をバランスよく実現する発泡体です。自動車の様々な部位での軽量化・高機能化を実現します。
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執筆者

小林 豊

SPE日本支部 理事

出光興産株式会社(1985~2021年)にて、ポリプロピレン系の自動車材料の開発に従事した。この間、博士(理学)を取得、株式会社プライムポリマーおよび米国Advanced Composites Inc.に出向した。その後、山形大学(2021~2026年)にて、海洋生分解性高分子の開発、および、プラスチックのマテリアルリサイクルの研究に従事した。2026年よりSPE日本支部にて庶務担当の理事を務める傍ら、企業向けに技術コンサルタントとして活動している。

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