World Rally Championship

Rally Report

WRCハイブリッド元年をトヨタが制す

24年ぶりの大変革で変貌したWRマシン

先月の最終戦ラリージャパンで全13戦を終了した2022年のWRC。様々な話題を提供した今年のシーズンだが、最大の変化はハイブリッドシステムを持つラリー1の導入だった。1997年から24年もの間、WRCの主役だったWRカーは終焉を迎え、新たに導入されたラリー1は一般のラリーカーの認知を即すためのネーミングとなった。フォーミュラカーのF1、F2、F3のように今年からはラリー1を頂点にラリー2、ラリー3…とカテゴリーが整理されている。

そのラリー1は従来のラリーカーの概念を覆す内容を持っていた。WRカーを含む従来のラリーカーは市販車をベースとしており、今年以降のラリー2〜ラリー5でもそれは変わらない。しかしラリー1に関しては市販車の面影を残した車体デザインと名前こそ持っているが、実態はカーボンモノコック以前のレーシングカーで多用されたチューブラーフレームに専用のエンジンとハイブリットシステムを搭載した、まさに公道を走るレーシングカーである。

ラリー1はWRカーに比べ複雑なハイブリッドシステムを持つことから重量が増え、空力デバイスや駆動系の制御も制限されているために性能的にはダウンすると見られていた。ところがラリー1はハイブリッド用モーターをエンジンパワーに加えて使うハイブリッドブーストを生かせるセクションでは従来のWRカーよりも速く、様々な制限から車の動きが大きいこともあり、見栄えのするドライビングを印象づけることになった。

ロバンペッラとトヨタ戴冠は信頼性の成せる業

まったく新しい車体構成とハイブリッドシステム。果たしてどのメーカー/チームが開発や熟成で先んじるのかが注目されたシーズン序盤だが、開幕戦モンテカルロを制したのはフォードMスポーツのプーマラリー1だった。ドライブしたのがモンテを大得意とするセバスチャン・ローブだったこともあるが、資金的に厳しいと見られていたMスポーツの優勝は値千金。一方、トヨタもパフォーマンスが十分に高いことを示した。

そして第2戦スウェーデンから第4戦ポルトガルまでヤリスラリー1に乗るカッレ・ロバンペッラが破竹の3連勝を達成する。ロバンペッラはその後も第6戦サファリ、第7戦エストニアでも優勝し、シーズン前半でドライバーズ選手権の大勢を決めてしまった。昨年までエースだったセバスチャン・オジェが今シーズンからスポット参戦に限定されたため、新たなエースを必要としていたトヨタの期待に見事に応えたシーズン6勝と言えるだろう。

ただし後半戦では3戦でデイ離脱を喫するなど、前半の貯金がなければ苦しい状況になった可能性もある。王座獲得後に臨む来シーズンは速く走るだけでなく、どこまで安定した戦いが出来るかが注目点だ。

ロバンペッラの前半の快走を支えたのはヤリスラリー1の信頼性の高さだった。パフォーマンスの高さはもちろん、それ以上に信頼性の高さがロバンペッラの成績を支え続けた。序盤から中盤にかけて最大のライバルとなったヒョンデがマイナーなトラブルに苦しみ、思うような成績を残せなかったことと比べると、まったく新しいマシンとなったシーズン序盤のトヨタの信頼性の高さは出来すぎにも思えるが、シーズン前の短い時間に開発と熟成に集中した技術陣の努力を垣間見る気がする。

トヨタとヒョンデ

序盤から圧倒的な強さだったトヨタに対し、出遅れたのがヒョンデだった。ここにひとつの分析がある。シーズンが第7戦〜第13戦だったら…エストニアからジャパンまでの全7戦だったらチャンピオンはオイット・タナックとヒョンデのものだったというものだ。あくまで計算上だけの話だが、実際にシーズン中盤から後半のヒョンデの成績はトヨタを圧倒していた。最終戦ラリージャパンの1-2フィニッシュは記憶に新しいが、ヒョンデはシーズン5勝中4勝を後半戦にあげている。

ヒョンデが序盤でパッとしなかった理由はi20ラリー1のスピードというより、トラブルに振り回されたことだが、後半戦はドライバーの意欲を削ぐような大きなタイムロスは少なかった。年初から続くチーム代表不在によって戦略にブレもあり、ハイブリッド元年を飾ることができなかった。単にイベントごとの速さではなく、年間を通じての戦略やパフォーマンスが大事なのが選手権だが、後半戦での攻勢はヒョンデにとってトンネルの先の光明だったことに間違いない。

Mスポーツが体制強化か? どうなる2023シーズン

2022年の1年を通して開発熟成された3チームのマシンのパフォーマンスに大きな優劣はないかに見える。となればドライバーラインナップが2023年の鍵となるが、トヨタは基本的に2022年同様。ヒョンデは二枚看板の一人だったオイット・タナックが離脱し、ティリー・ヌービルをエースにトヨタでスポット参戦していたエサペッカ・ラッピがレギュラードライバーの座に就く。またMスポーツのレギュラーだったクレイグ・ブリーンがダニエル・ソルドと共にスポットで参戦とタイトルを争った2チームの去就は決定している。

今シーズン限りでヒョンデからの離脱が発表されていた2019年のドライバーチャンピオン、タナックはフォードMスポーツで全戦出場が決まった。ヌービルと並びロバンペッラに対抗できる数少ないドライバーをMスポーツが得たことで、2023年参戦する3チームすべてが勝てるドライバーを揃えたことになる。選手権争いの興味は否が応にも盛り上がりそうだ。

一方、2023年のWRCカレンダーは14戦に拡大される情報もあったが、13戦で決着。2022年のイベントからイープル、ニュージーランド、カタルニアが外れ、代わってメキシコ、チリ、セントラルヨーロッパ(ドイツ、チェコ、オーストリアで開催)が加わる。メキシコ、チリはWRC開催実績があり、新規のラリーはセントラルヨーロッパだが、運営主体のADACはラリードイッチュラントをはじめ開催実績が豊富。ドイツにスタート&フィニッシュを置き、チェコ、オーストリアでもSSが行われる国境を跨いだ開催がどのようなものになるのか注目される。

ライター

川田輝(かわだあきら)

1960年生まれ
自動車雑誌の編集部員からオートテクニック、ラリーXプレスのジャーナリストになる。
アジアパシフィック選手権、PWRCのチームマネージャーを経てスズキWRTのチームマネージャーを務めた。
WRCは取材、チーム参戦で250戦ほど経験

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