World Rally Championship

Race Report

2021年WRCレビュー
コロナ禍を駆け抜けたWRCの精鋭たち

コロナが世界中を混乱の渦に巻き込んだ2021年、よくぞWRC(世界ラリー選手権)が12戦も開催されたと驚くと共に、開催に尽力した関係者の皆さんには頭の下がる思いだ。1973年に始まったWRCの50年近い歴史の中でも、今回のコロナ禍におけるシーズンほど混乱した前例はない。コロナが猛威を振るいだした昨年(2020年)はまさに混乱の始まりで、ラリーの中止が相次いだ。結局、予定を大幅に下回る7戦で行われた。今年2021年になると我々人間も学習し、コロナへの対抗措置も少しずつ功を奏し、前年を5戦上回る12戦が行われた。それでも予定された日本ラウンドなど4つのラリーは中止を余儀なくされ、涙を飲んだ。
それでも、いざシーズンが始まると参加チーム、ドライバーは全力で戦った。さすがはプロの集団であり、プロのドライバー達だ。彼らは参加する限り唯一の目標である勝利に向けて集中する。チームはライバル車より1km/hでも速く走るクルマ造りに総力を挙げ、ドライバーはライバルより1000分の1秒でも速く走るためにすべてを犠牲にする。そこに我々はWRCの真髄を見るのだ。

2021年のWRCは強豪3メーカー・4チームの激突でシーズンが進んだ。トヨタ・ガズー・レーシングWRT、ヒュンダイは2Cコンペティションとシェル・モービスWRT、そしてMスポーツ・フォードWRTの4チームだ。トヨタはヤリスWRCをセバスチャン・オジェ、エルフィン・エバンス、カッレ・ロバンペラの3人に託す。ヒュンダイは3年連続マニュファクチャラーズ選手権制覇に向けて2チーム体制を取り、i20クーペWRCと8人のドライバーを揃えた。ダニ・ソルド、ティエリー・ヌービル、オット・タナック、オリバー・ソルベルグといった強豪陣。フォードはフィエスタWRCを駆るガス・グリーンスミス、アドリアン・フルモーが中心だ。3メーカー以外の参戦がないのが寂しいが、この3メーカーだけでも14台のワールドラリーカーで14人のトップドライバーが覇を競った。加えて、マニュファクチャラーのタイトル対象外のエントリーになるが、ドライバーズ・タイトル争いを掛けてトヨタ1人、Mスポーツ4人、シトロエン1人が脇を固めた。トヨタを駆るのは勝田貴元である。

開幕戦は1月のラリー・モンテカルロ。このラリーでは序盤からトヨタのセバスチャン・オジェとエルフィン・エバンスが真っ向勝負を展開した。最終的にオジェが勝ったが、エバンスの戦闘力も非常に高く、今年も2020年同様に2人がタイトル争いを繰り広げる予兆が早くも開幕戦から伺われた。ところで、トヨタがモンテカルロ・ラリーを初めて制したのは1991年。最後に勝ったのは1998年だから、2021年の勝利は実に23年振りの快挙だった。

第2戦アークティック・ラリーはヒュンダイがトヨタを振り切って勝利を奪った。優勝ドライバーはオット・タナック。ヌービルと同じシェル・モービスWRTチームのスター・ドライバーだ。ヒュンダイは2Cコンペティション・チームよりシェル・モービスWRTチームの方に経験豊かなドライバーが集まっており、総合力が高い。

しかし、ヒュンダイの序盤での勝利はこの1戦だけで、第3戦ラリー・クロアチアから第7戦ラリー・エストニアまでトヨタが連戦連勝を記録を打ち立てた。実に5連勝。中でもオジェは第3戦クロアチア、第5戦サルディニア、第6戦サファリと圧倒的な強さを見せて連勝した。残りの勝利はエバンス(第4戦)とロバンペラ(第7戦)があげている。オジェの速さは圧倒的なものがあり、もう1人のセバスチャン、ローブに次ぐ54勝(2021年終了時点:ローブは79勝)を挙げている。2008年のWRC参戦から14年の長きにわたるキャリアを誇り、8度のチャンピオン・タイトル獲得もローブに次ぐ(ローブは9回)大記録だ。

第8戦イーブル・ラリー(ベルギー)は、ヒュンダイの逆襲でヌービルが勝利した。ヌービルは2014年からヒュンダイでWRCを戦っており、15勝はすべてヒュンダイであげている。長い間チャンピオンの期待をかけられながら、シーズン後半に成績を落として期待に応えられていない。しかし、21年は第11戦スペインでも勝利をあげ(キャリア15勝目)、タナックの優勝回数14勝を上回った。

しかし、第9戦アクロポリスで再びトヨタが勢いを取り戻し、ロバンペラが今季2勝目、続く第10戦フィンランドでもエバンスが2勝目をあげ、マニュファクチャラーの争いではトヨタが優位に立った。そして、前述したように第11戦スペインではヒュンダイに勝利を譲ったが、最終戦の第12戦モンツァでオジェが今季5勝目を挙げて、ドライバー、マニュファクチャラー共にトヨタがヒュンダイから2年振りにタイトルを奪還した。その最終戦は、トヨタのオジェとエバンスがチャンピオン・タイトルを争って死闘を繰り広げ、名勝負として語り継がれるイベントとなった。

トヨタ、ヒュンダイに較べて参戦規模の小さいフォード(Mスポーツ)は2台のフィエスタWRCでシーズンを戦うが、最上位は第6戦サファリの4位(ガス・グリーンスミス)、5位(アドリアン・フルモー)。マニュファクチャラーとしては総合ではトヨタ、ヒュンダイに次ぐ3位だが、獲得ポイントは200点で、1位のトヨタ(522点)、2位のヒュンダイ(463点)から大きく離されている。かつてはWRCのトップチームとして戦ったフォードも、活動縮小で経費削減となると、豊富な資金を投入してクルマ作り、トップ・ドライバーの獲得に動くトヨタ、ヒュンダイには太刀打ちできないということだろう。

こうして幕を閉じた2021年のWRCだが、最後に忘れてはいけない重要な報告をひとつ。それはトヨタ・ガズー・レーシングWRTからマニュファクチャラー・タイトル獲得対象枠で参加している勝田貴元の活躍が大いに注目されていることだ。ワークスチームと同じヤリスWRCで参戦の勝田、2021年は全戦に出場、第6戦サファリ・ラリーで見事2位に入賞。日本人ドライバーとしては1994年の篠塚健次郎(三菱)のサファリ2位以来の快挙。シーズン総合でも78点を獲得して選手権7位につけた。勝田の活躍は2022年も期待されており、日本人トップドライバーの誕生も夢ではない。

世界10ヶ国12戦を戦うWRC。自動車メーカーの技術の戦いであると同時に、ドライバーの腕と度胸と理性のぶつかり合いだ。その戦いは公正で嘘がない。自動車という機械は嘘をつかない。ドライバーは純粋にスピードを追求する。旭化成はこの世界最高峰のスポーツを支えることを誇りとして共に歩む。豊潤なドラマに満ちた2021年のWRCを振り返り、我々はさらなる高みを求めて2022年のWRCを迎えようとしている。

ライター

赤井邦彦

自動車雑誌編集部勤務を経て1977年に渡英、F1グランプリを中心に取材活動を行う。
1980年帰国、フリーランスのジャーナリストとして活動。F1グランプリ取材など多数。
1990年、株式会社赤井邦彦事務所設立、雑誌編集、広告コピー、WRCプレスオフィス、FIAプレス委員会委員などを経験。タイム誌アジア太平洋広告大賞受賞(コピー)。
2015年からMotorsport.com日本版の代表取締役・編集長。
FIA関連を含めて著書多数。図書館推薦図書など。

Asahi Kasei × Mobility

「自動車の安全、快適、環境」への貢献を実現するため、
旭化成はグループの強みである繊維、高機能樹脂、合成ゴム、半導体デバイスなど幅広い技術を生み出してきました。

旭化成の自動車製品や技術を搭載したコンセプトカー “AKXY”をはじめ、
これからも社会に対し絶え間なく新技術を提案することで、“昨日まで世界になかったもの”を皆様と共に創りつづけます。

CONCEPT