コラム
ポリ乳酸(PLA)の自動車応用:耐熱・耐衝撃性の改善
2026/11/04
自動車業界においてカーボンニュートラル対応が求められる中、植物由来のポリ乳酸(PLA)への期待が高まっています。一方で、内装部品などの産業用途へ適用するには、耐熱性や耐衝撃性といった物性面での課題がありました。本記事では、近畿大学の白石浩平氏が、独自の結晶化促進剤や相構造の制御を用いた配合技術から、実用化を見据えた成形条件の最適化まで、現場での材料開発の参考にしていただける具体的な取り組みを紹介します。
ポリ乳酸(PLA)の自動車応用:耐熱・耐衝撃性の改善
はじめに
自動車業界において環境負荷低減の取り組みが進む中、植物由来素材の導入に関心が集まっています。その中で、植物由来のバイオプラスチックであるPLAは、石油などの枯渇性資源の代替材料として多方面から実用化に向けた研究が進められています。近年では、非生分解性樹脂による海洋汚染への懸念から、生分解性を持つPLAへの関心が再び高まっています。
しかし、未改質のPLAを自動車内装部品などの産業資材へ適用するには課題があります。具体的には、結晶性が低いために耐熱性が不十分であること、また、耐衝撃性に欠ける点などが挙げられます。本記事では、これらの課題を段階的に克服するために行われた、配合技術による物性改善と、実用化を見据えた成形加工条件の最適化について解説します[1]。
結晶化の促進による耐熱性の向上
PLA単体では結晶性が低いため、成形体の耐熱性を向上させるには結晶化促進剤の添加が重要となります。研究チームは、主成分であるポリ(L-乳酸)(PLA)とポリ(D-乳酸)(PDLA)が相互作用して耐熱性の高いステレオコンプレックスを形成する性質を利用し、PDLAとデンプンの共重合体(COPLA-D)を独自に調製して[2]、結晶化促進剤として評価しました。
このCOPLA-DをPLAに10重量%添加した結果、荷重たわみ温度(HDT)は未配合PLAの53℃から131℃へと大きく向上しました。これは、デンプンを主鎖とするPDLA側鎖間の距離が適度であったことで、デンプン1分子あたりからの核形成頻度が増大したことや、PLAとのステレオコンプレックス形成能を保持したまま結晶化が効果的に促進されたためと考察されています[3]。
耐衝撃性の改善と相構造の制御
耐熱性が大きく向上した一方で、耐衝撃性の指標となるIzod衝撃強度は1.5 kJ/m²と低く、脆性破壊を示したため、産業用途への適用にはさらなる改善が必要でした。そこで、PLA内に非相溶な柔軟相を形成させ、衝撃を緩和するアプローチがとられました。
具体的には、軟質化剤としてポリカプロラクトン(PCL)を用い、さらにPLAとPCLのマトリックス間を結合させる相溶化剤(PLA-b-PBS)を配合しました。その結果、HDT 112℃、Izod値 7.1 kJ/m²と、耐熱性と耐衝撃性の両方が改善されました。
さらに研究チームは、相分離したPLAとPCLの界面の結合力をさらに高め、耐熱性と耐衝撃性を同時に引き上げるため、結晶化促進と相溶性の両機能を備えた新たなブロック共重合体(FCX)を調製し、最適配合を行いました。これにより、HDT 122℃、Izod値 27 kJ/m²という耐熱性と耐衝撃性の両面での改善が得られています。顕微鏡観察の結果、数µm径の比較的均一な柔軟性ドメインが分散した構造が形成されており、形成された相構造が衝撃緩和に寄与していることが確認されました[3], [4]。

図1 耐衝撃性コンポジットPLA/COPLA-D/PLA-b-PBS/PCL の相構造イメージ
自動車用途に求められる耐加水分解性と成形条件の影響
自動車の内装材として長期使用を前提とする場合、高温高湿下での物性変化を抑制する十分な耐加水分解性を与えることが求められます。ポリエステル系樹脂で実績のあるポリカルボジイミド(Stabaxol P-100)を加水分解抑制剤として3重量%配合したところ、高温高湿下(50℃、95%RH)において1000時間経過しても引張強度保持率がほぼ100%を示す優れた耐加水分解性が確認されました。ただし、抑制剤の添加によってPLAの結晶化が抑制され、HDTが低下する傾向も見られたため、抑制剤の構造や配合量の検討が必要と考えられます。
このような材料配合の工夫に加え、実用化に向けたもう一つの重要な要素が加工プロセスです。射出成形条件が成形体の物性に与える影響についても詳細な検討が行われており、特に射出成形速度の増加とともにHDTおよびIzod値がいずれも直線的に低下する傾向が認められました。
分析の結果、射出速度が速い場合、金型近傍で高温となることで流動性の高い相溶化剤などが表面(スキン層)に偏在し、非晶相(アモルファス)が形成されやすくなるためと推察されました。一方、射出速度が遅い場合は、PLAと相溶化剤などによる均一な海島構造が形成されると考えられています[1]。
また、本コンポジットはペレット状態での吸水により衝撃強度が約70%〜35%まで低下するため、成形前の厳密な管理によって水分の吸収を防ぐことが求められます[1]。

図2 耐衝撃・耐加水分解性コンポジット(Entry11)の結晶化形態モデル (A)高射出速度(50,150 mm/s),(B)低射出速度(10 mm/s)
このように、材料配合による物性を十分に発揮させるためには、乾燥状態の維持とともに、射出速度をはじめとする成形条件の適切な設定がきわめて重要といえるでしょう。
おわりに
PLAは環境対応素材としての機能を持ちながら、配合設計によって加工性や物性を制御するアプローチにおいては、配合設計によって加工性や物性を柔軟に制御できる可能性を備えています[1]。結晶化の促進、相構造の制御、そして成形プロセスの適切な制御といった多角的なアプローチによって、PLA素材の産業分野への活用が今後さらに拡大していくことが期待されます。
【参考文献】
[1] 矢野徹, 白石浩平, 「植物由来のバイオプラスチックの自動車内装材への応用」, 自動車樹脂化の最新動向, 第5章, pp.230-240,シーエムシー出版 (2020)
[2] 白石浩平 ほか, 日本接着学会誌, 47 (4), 131 (2011)
[3] 白石浩平 ほか, 「ステレオコンプレックスを利用したポリ乳酸の結晶化と耐熱・耐衝撃性改質」, 機能材料, 33 (8), 36 (2013)
[4] 浦川理, 『プラスチックの破損・破壊メカニズムと耐衝撃性向上技術』, p.240, サイエンス&テクノロジー (2017)
【編集後記】
本記事では、環境対応素材として注目されるPLAについて、自動車応用に向けた実践的なアプローチをご紹介しました。材料の配合処方による耐熱性や耐衝撃性の向上にとどまらず、高温高湿下での耐加水分解性の確保や、射出成形時の速度など加工プロセスの適切な条件設定が物性発現に不可欠であるという点は、現場で試行錯誤を重ねる開発者の皆様にとって非常に示唆に富む内容だったのではないでしょうか。新素材の実用化には多くの壁がありますが、今回示された多角的な視点が、皆様の新たなモビリティ開発の一助となれば幸いです。
執筆者
白石 浩平
近畿大学 工学部 化学生命工学科 教授 大学院システム工学研究科 教授 / 次世代基盤技術研究所 先端化学生命工学研究センター長 博士(工学)
大阪市立大学大学院工学研究科修士課程修了後、1987年より近畿大学工学部に着任。ハインリッヒ・ハイネ・デュッセルドルフ大学博士研究員などを経て現職。専門分野は高分子化学、機能性高分子、生体材料学。植物由来バイオプラスチック(PLA等)の高性能化・高機能化をはじめ、医療・生体適合性高分子材料の開発や、産学官連携による各種技術の産業応用研究に長年従事している。
モビリティ関連情報サイト

