コラム
自動車分野における異種材接合用接着剤の技術動向
2026/02/03
自動車産業では、軽量化とマルチマテリアル化が急速に進み、異種材料の接合技術が重要性を増しています。今回の記事では、長年接着技術に携わってこられた 若林一民 氏に、スポットウェルドボンディングをはじめとする構造用接着の最新動向や、ウレタン・エポキシ・アクリル各系材料の特性をわかりやすくご解説いただきます。自動車メーカーや材料開発に携わる方々にとって、今後の車体設計を考えるうえで示唆に富む内容となっています。
自動車分野における異種材接合用接着剤の技術動向
若林 一民
自動車産業では、走行時のエネルギー消費を抑え、環境負荷物質の排出を削減するため、自動車全体の軽量化が重要な課題となっています。車両全体を軽くするためには、個々の部品だけでなく、ボディ構造そのものの軽量化が求められます。こうした課題に対応するためには、材料そのものを軽くする必要があり、従来の鉄鋼材を中心とした構造から脱却することが求められています。そこで注目されているのが、複数の軽量材料を組み合わせて使用する「マルチマテリアル設計」です。マルチマテリアル設計では、アルミ合金やチタン合金のように密度(≒比重)の小さい金属および炭素繊維やガラス繊維強化樹脂(熱硬化性CFRPと熱可塑性CFRTP、GFRTP)やエンジニアリングプラスチックのように密度(≒比重)が小さく、かつ強靭なプラスチック材料が使用されます。
一方、これらの軽量化材料を組み合わせた車体を製造する場合、従来のような溶接を主体とした接合方法では対応が難しくなります。異種材料同士の接合が増えるため、必然的に接着(接着剤接合)による接合が増えてきます。
スポットウェルドボンディング技術の採用で構造接着の耐久性および信頼性の向上
スポットウェルドボンディング技術とは、接着と溶接を組み合わせた併用接合技術です。例えば鋼板同士を接合する場合、鋼板の間に構造用接着剤(例.一液加熱硬化型エポキシ樹脂系接着剤)を塗布し、接着剤が硬化する前にスポット溶接を行います。その後、塗料の乾燥炉を利用し、接着剤を加熱硬化(170~180℃で20~30分)させています。
接着の基本は、接着面積によって強度を発揮することです。硬化収縮や、鋼板と接着剤の線膨張係数(熱膨張係数)の違いによって接着界面に蓄積される熱エネルギーを、広い面積へ分散することで、溶接部への一点的な応力集中を抑える効果があります。一方、スポット溶接は金属同士の溶着によるメタルタッチ接合で金属そのものに匹敵する強度を出すことができます。
このように、接着とスポット溶接を併用することで、接合部全体の剛性が向上し、最終的には接合部の耐久性と信頼性の向上につながります。
異種材接着のための構造用接着剤のポジショニング
自動車分野では、昔から構造用接着剤が多くの部品で使われてきました。
主成分の違いでみると、ウレタン系、エポキシ系、アクリル系の三つが代表的で、それぞれ性格が異なります。
まず、ウレタン系接着剤は、ダンベル試験片での伸びが150~400%以上と高い柔軟性を持ちますが、引張りせん断強さは準構造〜構造タイプで6~30MPa程度が一般的です。構造用ウレタン系接着剤として、二液室温硬化形のタイプがよく使用されます。このタイプは硬化触媒や硬化促進剤の種類により、室温での硬化時間をコントロールできます。
次に、エポキシ系接着剤はダンベル試験片での伸びが数%~30%程度ですが、引張りせん断強さは20~40MPaと高い強度のものが設計可能です。課題は硬化時間で、室温硬化二液タイプは硬化の早いものでも初期強度発現に数十分から1時間、完全硬化には24時間以上かかります。現行の一液加熱硬化タイプは170~180℃で20~30分での硬化が一般的です。
最後に、アクリル系接着剤は、主に4つのタイプがあります。① シアノアクリレート接着剤(瞬間接着剤)、② 嫌気性接着剤、③ UV・VUV硬化接着剤、④ SGA(Second Generation Acrylic Adhesive)です。SGAはレドックス触媒を利用し、ラジカルの連鎖移動反応によって硬化します。しかし、空気中の酸素により硬化が阻害されやすいため、取り扱いが難しい点が課題です。さらに、硬化収縮が大きいという特性から、大型部品の接着には適していないと考えられていました。しかし、最近は処方や構造の工夫で大型部材への採用も広がっています。
異種材接着を考慮した自動車構造用接着剤の進歩(被着材と適応接着剤の関係)
(1) CFR(T)P/CFR(T)P、金属/CFR(T)P用
自動車分野では、軽量化と強度向上を両立するため、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)と金属の組み合わせが広く検討されています。これに伴い、接着剤には「高い伸び」と「高い引張せん断強さ」という、通常は両立が難しい性能が求められます。
従来、この両方を満たす接着剤の開発は技術的に困難と考えられていました。しかし、近年は接着剤組成の骨格を強靭化し、同時に架橋密度を最適化することで、柔軟性と強度の両立が可能になっています。その結果、従来にはなかったレベルの伸びとせん断強さを兼ね備えたウレタン系接着剤が登場し、構造用接着の可能性を大きく広げています。
(2) 超高張力鋼板(ハイテン材)用の強靭性エポキシ樹脂接着剤の開発
超高張力鋼板(ハイテン材)とアルミニウムといった異種金属を接着する場合、線膨張係数の違いにより、温度変化や外部応力で界面に大きなエネルギーが生じます。これが耐久性低下の一因になります。この課題に対して、伸びが約50%、引張せん断強さが35~37MPaの柔軟性を備えたエポキシ系接着剤が開発されています。接着剤被膜に適度な柔軟性を持たせることで、熱によって生じる応力を吸収し、異種金属接着の耐久性を高めることが可能となりました。
(3) 金属相互、金属―プラスチック・CFRP用強靭化接着剤の開発
異種材接合の広がりに伴い、「100%近い伸び」と「10~16MPaほどの引張せん断強さ」を同時に実現する接着剤も登場しています。柔軟性と強度は本来相反する特徴ですが、エポキシ樹脂と変成シリコーンを組み合わせたハイブリッド型接着剤により、両立が可能になっています。また、現在フロントガラスやリアガラスのシーリングに使われている一液ポリウレタン系接着剤についても、低温で硬化するタイプが構造用接着剤として期待されています。一方、第二世代アクリル系接着剤(SGA)は、小型で高性能が求められる電装部品に適した特性を持っています。さらに、高強度エポキシ樹脂系接着剤は、超高張力鋼板同士の接合に最適な材料として利用が進んでいます。
<編集長後記>
異種材料接着は軽量化が進む自動車産業において、ますます重要な技術領域となっています。本稿では、接着剤が抱える「柔軟性と強度の両立」といった課題に対し、材料設計の工夫で突破してきた技術進歩が明確に示されていました。また、リサイクルを見据えた易解体性接着剤など、今後のサステナブル設計につながる視点も印象的です。
執筆者
若林 一民
接着剤メーカーのノガワケミカル株式会社に入社後、通商産業省 工業技術院 東京工業試験所(現・産業技術総合研究所)へ出向し、高分子合成の研究に従事。その後、ノガワケミカルに復帰し、新規接着剤の開発、技術サービス、販売、製造などの実務から管理・監督まで幅広く担当。
会社では常務取締役、専務取締役、代表取締役社長を歴任し、経営にも深く関わる。退任後、接着・粘着・シーリング分野の技術コンサルタント事務所「エーピーエス リサーチ」を2007年に設立し、専門知識を活かした支援を行っている。
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