World Rally Championship

Rally Report

Round 12

変遷する時代
セバスチャン・オジェ、有終の美で8度目のタイトル獲得

WRCとイタリア

イタリアにおけるWRC(世界ラリー選手権)の歴史は長い。1973年にサンレモ・ラリーが選手権に登録されて以来、今年で38回を数える。サンレモ・ラリー音楽祭で有名な地中海の風光明媚な都市サンレモを中心に行われたラリーで、数々の名勝負を生んだイベントだ。しかし、2004年にはWRCイタリアはサルディニア島に移り、以来ラリー・サルディニアとして開催されている。今年も第5戦として6月3日から6日までの4日間にわたって行われ、トヨタ・ヤリスWRCを駆るセバスチャン・オジェが今季3勝目をあげている。

ラリー・サルディニアに見るように2021年のWRCは一見順調に開催されているように思えるが、新型コロナウイルスの流行はシリーズにひとかたならぬ影響を与えている。今年こそと期待されたWRCジャパンは2年連続で中止が決まるなど、関係者に大きな痛手を与えている。そのWRCジャパンの代替イベントとして開催されたのが、最終戦ラリー・モンツァ。モンツァといえばF1グランプリで有名なサーキットを連想するが、まさしくそのモンツァ・サーキットと、近郊のイタリア・アルプスの裾野を巡る山岳路を舞台にしたターマック・ラリーである。イタリアでのWRCの2戦開催は、同国がWRCにおける長い歴史と深い理解、熱狂的なファンを抱えた国であることの証だ。

2021年ラリー・モンツァ

結果から先に言えば、今年のラリー・モンツァを制したのは昨年同様にトヨタ・ヤリスWRCに乗るセバスチャン・オジェ/ジュリアン・イングラシア組。実はこの2人、今年のラリー・モンツァがペアを組む最後のイベントになった。オジェは今年がWRCフル参戦最後の年、イングラシアは今年で引退だ。この大きな節目に彼らは偉業を成し遂げた。ラリー・モンツァの優勝だけでなく、シリーズ・タイトルも獲得、オジェはセバスチャン・ローブの選手権制覇9回の大記録に次ぐ8回目のタイトル制覇を成し遂げたのだ。最終日、1位でゴールしたオジェは、「花火が上がったような興奮をおぼえた」と語った。

ラリー・モンツァはユニークなイベントだ。イタリア・アルプス麓を巡る山岳路と、モンツァ・サーキットの一部と場内に張り巡らされたサービスロードを使うのだが、レースでは使用されていないバンクの一部を使う区間もあり、ドライバーからは「新鮮で楽しい」という声が聞かれた。このユニークなコースに設定されたラリー・モンツァ、11月19日から21日までの3日間で争われた。1日目はコモ湖近くの山岳路を中心にした7個所のSS(スペシャルステージ:105.41km)を含むコース、2日目は標高差が1340mもある22.11kmもの長さのSSとモンツァ・サーキットのバンクを含む6個所のSS(108.24km)を含むコース。最終日はパワーステージを含む3SS(40.16km)のコース設定だった。トータルSS の距離は253.81kmにおよんだ。

ラリーはトヨタのオジェとエルフィン・エバンスの間で展開された、激しいトップ争いに湧いた。1日目が終了した時点ではエバンスがオジェを1.4秒差で抑えてトップに立った。2日目が最も熾烈な戦いの日になった。2人はSS毎に順位を入れ替える接戦を繰り返した。僅差でエバンスを追いかけていたオジェは、SS14であわやシケインのコンクリートにヒットかと思われる場面があったが、ギリギリでかわしてゴール。その日はエバンスを0.5秒差に逆転した。そして最終日の3日目、エバンスはオジェとの差を埋めることが出来ず、逆に7.3秒まで差を広げられ、勝利には手が届かなかった。オジェ/イングラシア組にとってWRC 54勝目。今季5勝目で獲得総合ポイント230点。見事に8回目のチャンピオンに輝き、ドライバー・タイトル、コドライバー・タイトル、マニュファクチャラーズ・タイトル(TOYOTA GAZOO Racing WRT)の3冠を達成した。

トヨタの快進撃に対し、ヒュンダイは手が出なかった。ダニ・ソルド(ヒュンダイi20クーペWRC)組が3位、4位には同チームのNo.1ドライバーであり最終日の3SSすべてでベストタイムを記録したティエリー・ヌービルが入った。5位もヒュンダイのオリバー・ソルベルグ。6位にオットー・タナックの代役で出場したテーム・スニネン、7位に勝田貴元がアクシデントを乗り越えて入った。

時代の変遷

2021年WRC最終戦が終了し、関係者の目は2022年を見つめている。長く続いたWRカーが今季限りで姿を消し、2022年からは新しいRally1カーでの戦いになる。これは、これまでのWRCの最上級クラスWRC1をRally1と名称変更したのもので、技術的にも大きな変更が為される。それは地球環境への配慮を考慮したもので、主軸としてハイブリッドシステムを搭載したクルマになる。そのハイブリッドシステムはドイツのコンパクト・ダイナミクス社が一括供給する。エンジン本体は今年までWRカーが使用していた1.6リッター4気筒直噴ターボ(GRE=グローバルレースエンジン)の継続使用が決まっている。
使用する燃料も持続可能なバイオ燃料に限られ、この燃料はP1レーシング・フューエルズ社が独占供給する。FIAはモータースポーツに於いてもカーボンニュートラルへの未来へ大きく舵を切ろうとしており、地球環境に優しい燃料の使用をWRCのみならずツーリングカーにも採用する方向だ。このWRCの取り組む燃料を含めた技術開発は、将来的に市販車の技術開発に貢献することになるだろう。WRCの存在意義が高まるチャンスでもある。新しいWRCの将来に期待しよう。

ライター

赤井邦彦

自動車雑誌編集部勤務を経て1977年に渡英、F1グランプリを中心に取材活動を行う。
1980年帰国、フリーランスのジャーナリストとして活動。F1グランプリ取材など多数。
1990年、株式会社赤井邦彦事務所設立、雑誌編集、広告コピー、WRCプレスオフィス、FIAプレス委員会委員などを経験。タイム誌アジア太平洋広告大賞受賞(コピー)。
2015年からMotorsport.com日本版の代表取締役・編集長。
FIA関連を含めて著書多数。図書館推薦図書など。

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