vol.05 特集テーマ 機能価値から感性価値へ

伝統工芸が紡ぐ和のマスク―2

マスクが日々の生活の必需品となりつつあるなか、日本各地の伝統織物の美と技術をつめこんだ布マスクがいま話題になっている。使い心地と機能性に、個性的なスタイルをも兼ね備えた、ふたつの和のマスクをご紹介しよう。
[Part 1 から続く]

自然に暮らす古の知恵に想いを馳せる

こちらの優しげな風合いのマスクは、日本最古の織物のひとつ「しな織」で作られたもの。しな織は、沖縄の芭蕉布(ばしょうふ)、静岡の葛布(くずふ)とならび日本の“三大古代布”と呼ばれ、薄く剥がしたシナノキの樹皮を裂いて糸状に撚(よ)ったものを織り上げて作られる。現在は山形と新潟の山間の3つの村でのみ作られており、古来、自然との共生のなかで培われてきた人々の知恵をいまに伝えている。

冬は豪雪地帯となるこれらの地域では、縄や籠、そして布などの生活に欠かせない品々を作る材料として、身近に自生するシナノキの丈夫で水に強い特性を活かしてきた。日本が梅雨を迎える6月、樹皮を採るためにシナノキを伐採することから始まり、その後20工程以上におよぶ丁寧な手作業を経て、しな織は作られる。

梅雨時に作業を始めるのは、樹皮が湿気を含んで剥がしやすくなるため。剥がした皮を10時間以上かけて灰汁で煮ると、繊維が網状に絡み合う層が現れる。

煮込んだ樹皮を更に10枚から20枚になるまで薄く剥がし、灰汁を洗い落としてから2日ほど糠に漬け込むと色が漂白され明るくなり、質感も柔らかに。川の水で糠を流し、天日干しにする。

しな織マスクを発売した山形県鶴岡市の「石田屋」は代々、呉服や衣料品を150年近く扱ってきた商店。5代目の石田 誠さんが、故郷でひっそりと織り継がれてきたしな織に出会ったことで、“古代の布を現代へ”というコンセプトのもと1990年からオリジナル商品を手がけるようになった。現在は6代目の航平さんが商品プロデュースを担い、次世代への継承という課題を抱えるこの伝統を絶やしてはならないと、しな織の魅力を国内外に伝える取組みを受け継いでいる。

乾いた皮を糸状に細く裂き、それをつなぎ合わせていく“しな績(う)み”の作業は冬場に行われる。指先を巧みに使うこの工程が一番熟練を要する。

績(う)んだ糸を糸車で更に撚(よ)ったものを、湿らせながら織っていく。村の女性たちの手によって営まれてきた、日常の風景だ。

 

マスクの商品化のきっかけは、人気商品であるしな織の帽子の作家さんが、石田さんのために端切れで縫ってくれた手作りマスク。張りのある素材ゆえの立体感とフィット感があり、新型コロナウイルスの影響でマスク需要が高まるなか、4月の販売開始から、予想の5倍以上の注文があったという。

顔に当たる面は綿の晒し生地で、肌触りも重視。しな織の特徴である風通しの良さで、暑い季節も快適に過ごせそうだ。繰り返し洗えるので使い込むほどに顔の形になじみ、だんだんとあめ色に変化する天然素材の風合いや、シナノキ特有の木の香りも魅力。昔ながらの暮らしの知恵が生きる機能美、そして自然の恵みで手間暇かけて作られたものを、大切に長く使うこと。それは、マスクの着用が新たな習慣となっていくであろうこれからの毎日に、心の豊かさをもたらしてくれるはずだ。

 

しな織創芸石田

山形県鶴岡市大山2-23-39
Tel. 0235-33-2025
https://shinafu.com/

石田屋創業時から残る家屋や庭を改装したギャラリーでのイベントほか、日本全国の百貨店などで展示会を開催している。
しな織マスク 4,950円(税込)

 

※記事内の情報は2020年6月当時のものになります。

 

この記事は、世界文化ホールディングス『家庭画報 International Japan Edition』(初出日:2020年6月10日)より、アマナのパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせは、licensed_content@amana.jpにお願いいたします。

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