vol.01 特集テーマ 快適な車内空間

未来の働き方が形作る、未来のモビリティー
〜東南アジアの事例から読み解く、“新しい生活”のインサイト〜

朝8時だというのに閑散とした道路、乗客がまばらなバスや電車の車内。以前の東南アジアの大都市からは、想像もつかなかった光景です。この地域の交通システムが、これまでの数十年間、人口増加、経済活動の高まり、そして車やバイクの個人所有によって圧迫されてきたということが信じがたくなります。

東南アジアでは、コロナ禍に伴う通勤ラッシュ問題に対し、「必須ではない移動の削減」という何とも単純な解決策を採用しました。

東南アジアの感染増加を受け、政府や企業は、必須ではない活動のための出勤を制限し、できる限り在宅勤務を採用するという措置を取りました。

これは東南アジアのすべての過密都市にとって、めったにない休息の機会になり、パンデミック前の通勤者が我慢しなければならなかった交通渋滞も、大幅に解消されました。多くの市民にとって、これは生活の質(QOL)の向上を意味します。

その一方で、調査によると、アジア太平洋地域のオフィス労働者の61%は職場への復帰を望んでおり、将来的には柔軟な勤務形態などのハイブリッドモデルが採用されることを期待しています。そうした変革のためには、従業員がスケジュールに適応することが求められます。また、長期的にはモビリティーインフラが、その変革による影響を受けることになるでしょう。

未来の仕事に向け、新しく柔軟な勤務体制を導入

パンデミックを受け、多くの企業はすでに働き方の見直しに取り組んでいます。

コロナ前の時代は、就業時間が同じ時間帯に集中していたため、働く人たちは家と職場の往復の中で、混雑した環境にさらされる傾向にありました。

企業は現在、社内の空間を再構成して、安全なソーシャルディスタンスを実現しているほか、すべての従業員をオフィス内に配置するのではなく、安全のために仕事場所を選択することを従業員に認めています。これまで出社が必須と思われていた様々な仕事が、今は従業員の自宅で行われるようになっています。

世界中の企業が、在宅勤務体制の導入による教訓に基づいて、勤務形態の見直しを図っています。再開されつつある職場がロックダウンに逆戻りしないように、企業は社内での感染拡大の防止に向け、積極的な役割を果たさなければなりません。

ヒトを中心に据えてモビリティーにアプローチ

都市がコロナ禍による混乱から抜け出し、ラッシュアワーの渋滞と混雑が再び生じている中で、私たちは「新しい日常」における移動の理由と方法を理解しなければなりません。

働く人たちは、家、職場、飲食店、待ち合わせ場所といった一般的な目的地の間を、なぜ、そしてどのように毎日移動しているのでしょうか? その解明は、モビリティー需要の分散に役立ち、交通システムをさらに最適化するための知見にもつながるでしょう。

HRとモビリティーの融合

HR分野ではテクノロジーの利用が増大していますが、それを通勤需要向けモビリティーソリューションのパーソナライゼーションに活用し、最適化に必要なデータを発見できるかもしれません。HRテクノロジーを手がけるスタートアップには、そうした新しい機会を活かすチャンスが訪れています。クライアントの従業員のエンゲージメントやパフォーマンスを、リモートで追跡して向上させられるためです。

そのようなスタートアップは、クライアントの従業員の行動に関するインサイトを引き出し、柔軟な勤務制度の設計に貢献して、必須の移動を適切なレベルに抑えられる可能性があります。

シンガポールの企業EngageRocketが提供するクラウドベースのソフトウェアは、従業員のフィードバックと分析を自動化して、そのエンゲージメントとパフォーマンスを監視し、改善します。東南アジアにおける人員分析を促進するため、このスタートアップは2020年3月に300万シンガポールドル(220万米ドル)を調達しました。

また、スケジュールの最適化やクレーム管理を専門とする企業は、社内チームの最適な勤務スケジュールを通勤条件に応じて設計するサービスを、他社に先駆けて提供できるかもしれません。シンガポールに拠点を置くスタートアップWorkforce Optimizerは、柔軟な働き方の構築にAIを活用しています。同社のスケジュール完全自動化モジュールは、クライアントの管理者がスタッフのスキル、都合、好みに応じてスマートなスケジュールを構築するのに役立ちます。

従業員に向けた「サービスとしてのモビリティー」

テレマティクスとアプリベースの追跡を導入することで、様々な車両タイプのリアルタイムの位置・移動データをネットワーク接続できたという成功例が、多数生まれています。そのような取り組みによって、モビリティーソリューション提供の管理向上、リアルタイムの情報共有、履歴データに基づく需要予測などが可能になります。Googleは2020年3月、フィリピン運輸省(DOTr)が提供する無料バスサービスプログラムのデジタル化を支援しました。医療施設に通勤する最前線の医療従事者は、Googleマップを使って、17通りの経路から最も推奨されるバスルートを見つけられるようになりました。

大企業の多くは、すでに通勤システムの編成に取り組んでおり、発着の時刻と場所を固定して、従来型の交通企業と契約を結んでいます。従業員はその時刻表に応じて仕事を計画し、文字通り「バスに乗り遅れないよう」に仕事を終わらせます。

一方、オフィス街に集まる車やバスによる渋滞のせいで、多くのムダな時間が費やされているという問題もあります。

将来、従業員が移動の方法や時間をもっと自分で選べるようになれば、柔軟な就業時間、HRテクノロジー、そしてコネクテッドフリートを通して、より優れた「サービスとしてのモビリティー」モデルが生み出される可能性があります。その際は、雇用者も民間・公営のモビリティーソリューション企業と協力して、テクノロジーを活かした選択肢を自社の従業員に提供できるかもしれません。そうした通勤手段は、タイムリーで快適性に優れると同時に、雇用者にとってもコスト効果が得られるものになるはずです。

SWAT Mobilityは先日、トヨタ・モーター・フィリピンと提携し、マニラで企業向けスマート交通ソリューションを立ち上げました。その利用者は、フィリピン最大級のコワーキング・人材派遣企業であるKMC Solutionsです。フィリピンの公共交通手段はパンデミックのために制限され、従業員の移動には制約が生じていました。このテクノロジーは、通勤の問題を解決するだけにとどまらず、人混みの回避によって従業員体験を向上させたほか、管理目的の追跡にも役立ちました。

まとめ

ポストコロナの世界で働き方が変わるにつれ、通勤のあり方も変化していきます。長きにわたる在宅勤務期間で得られた新しい知見により、新しい働き方の道が開かれ、それによってモビリティーの要件も新たなものとなるでしょう。

働く人々の行動についての知見と、リアルタイムの車両の位置・移動データの活用によって、モビリティーソリューションの需給に関する理解を深めることは、よりスマートな、未来のモビリティーソリューションの基礎となります。

雇用者は、HR部門の取り組みと、民間・公営のモビリティーソリューション企業とのコラボレーションを通じ、自社の従業員のモビリティーニーズに積極的に対応することで、彼らの安全と生産性を確保できます。

ポストコロナの世界において、通勤へのアプローチを新たに調整することは、長期的に見ると、東南アジアの都市渋滞の緩和にもつながるかもしれません。

執筆者らが勤めるPadang & Coでは、国連の「持続可能な開発目標」の第9項目(産業、イノベーション、インフラ)と第11項目(持続可能な都市とコミュニティー)を支援しています。シンガポールモビリティーチャレンジなどのイノベーションチャレンジを通じてモビリティー分野のイノベーションを促進しているほか、自社のAI for SEAプログラムを通じてエコシステムのデータ・AI人材プールを構築しています。

この記事はe27のZi Peng Tanが執筆し、Industry Diveパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comにお願いいたします。

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