vol.01 特集テーマ 快適な車内空間

パンデミック、デザイン、生活の関係性を考える

イタリアのデザイン会社ピニンファリーナ(Pininfarina S.p.A.)のCEOであるシルビオ・ピエトロ・アンゴリ氏は、「デザインを通して未来を再設計する」というタイトルのエッセイを執筆しました。アンゴリ氏はこのエッセイの重要なポイントをDigital Journalに語ってくれました。

このエッセイの中でアンゴリ氏は、新型コロナウイルス後のアートとデザインの将来に注目し、こう述べています。「パンデミック後にデザインに起こる最大の変化は、デザインがもはや人々の感情を刺激するだけでなく、その感情に“耳を傾け“て、人々が感じていることを常に汲み取りながら、環境全体のデザインを調整していくことが当然になるということです。このような『技術の人間化』が、人々に“安心”を与えます。そしてそこには、私たちの計画の立て方、生き方、移動方法、ビジネスの方法、そしてコミュニケーションの方法が反映されます」。

今回のエッセイについてアンゴリ氏は、コロナ後についての、ある種の前向きな考え方に基づいた、Digital Journalの読者の興味を引くエッセイではないかと考えています。

(アンゴリ氏は、アート、デザイン、文化、起業家精神について定期的にプレゼンテーションを行っています)

パンデミックの歴史とデザインへの影響

パンデミックの歴史とその社会経済的な影響を振り返って、アンゴリ氏は次のように述べています。「パンデミックは人類の歴史と絡み合っています。ウイルスの発生によってその地域住民に大量の死者が出て、長く続いた政治勢力が崩壊する、といったことが何世紀にもわたってたびたび起こっています」。

しかし、アンゴリ氏は「それと同時に、ウイルスの発生によって新しい経済秩序が創出されて成長し、新技術が開発されて文化的な繁栄がもたらされました。たとえば、14世紀半ばにヨーロッパに打撃を与えたペストの発生は、長期にわたる深刻な不況をもたらしました。その後、前例のない経済成長よって世の中が豊かになり、イタリアはルネサンス期に入って、ミケランジェロ、ベルニーニ、ラファエロ、レオナルドなど、今日私たちが賞賛する多くの天才が傑作を生み出しました。大災害が新たな始まりへの道を開き、人々の幸福を大きく向上させる新たな機会の源となることを、歴史が証明しているように思います」と指摘します。

変化する都市計画

歴史的観点から、アンゴリ氏はこう言います。「この30年間、都市計画は高密度と大量輸送という2つの原則に基づいて行われてきました。この先、町の新しい広場やコンサートホールをデザインするときには、ソーシャルディスタンスを優先すべきか、ソーシャルインタラクションを促進すべきか、というジレンマに直面しなければならず、その答えは絶えず変化していくことになるでしょう。都市の活動は再開されつつありますが、人々の密集を大幅に制限する予防策が次々と実施されており、ソーシャルディスタンスを保つという考え方は今なお変わっていません。デザインを通じて私たちが果たすべき責任は、多くの人にインタラクションを体験してもらえるようにしながら、感染リスクを軽減するための最新のAIおよび5Gテクノロジー(サーマルスキャナー、歩行者モニタリング、動的フロー管理、試験施設や救急設備への迅速なアクセスなど)もデザインに取り入れ、デザインを通じてこうしたテクノロジーを『人間化』することです」。

住宅の未来

居住空間の未来について、アンゴリ氏は次のように推測します。「住宅、オフィス、レジャーの境界がますます曖昧になるにつれて、プライベートな空間としての住宅は将来、根本的に変化していくでしょう。デザインに関しては、家で宿題やオンライン学習を行うことが増えた家族のためのプライベートな空間をさらに確保し、オープンな空間を家族がそれぞれ自由に使用できるようにするという高度なニーズを考慮する必要があります。そのため、将来の家は複雑で再構成可能な空間が設けられた、日常生活のさまざまな状況に適応できるものにすべきなのです」。

職場の未来

未来のオフィスはどうなるだろうか? とアンゴリ氏は考えを巡らせます。「オフィスの空間はどう変化するのでしょうか。これまでの窮屈なオフィスの空間を改造するとなるとコストがかかるため、可能であれば在宅勤務が1つの大きな解決策になるでしょう。それが不可能であれば、オフィスの内と外の両方の空間について考え直してみる必要があります。安心感をもたらすために、オフィスのパブリックな空間に、すでに出来上がっているユニットを使用してパーソナルエリアを作り出せれば、孤立感を覚えることなく『守られている』と感じることができます。これは、建築学で主流となっている『正方形のスペース』という標準的なアプローチではなく、『湾曲したスペース』をあえて取り入れることで実現され、それによって空間を垂直に分割して直接的な接触を避けながらお互いがやり取りできるようになります」。

交通の未来

A地点からB地点への移動も変化する、とアンゴリ氏は語ります。「公共交通機関については大幅に考え直す必要があるでしょう。乗客に心理的な安心感を与えるためにはデジタルサーフェスも役立つかもしれません。大量輸送機関ではこうした技術をはじめとした手法により、人が密集したパブリックな空間内にバーチャルなプライベート空間を作ることができますし、そうしないと乗客は移動中に不快に感じることになるでしょう。たとえば、飛行機や電車のインテリアの色を変更したり、スクリーンに落ち着いた風景を映したり、一人一人の気持ちに即した音楽を個別に再生したりすることができます。座席の配置や、手すりのように人の手に触れる面には、とくにまったく新しいアプローチが必要です」。

小売業の未来

アンゴリ氏は、新型コロナウイルスが消費を混乱させていると断言します。「ソーシャルディスタンスはリテール空間にも影響を及ぼします。小売業のビジネスモデルは全面的に変革する必要があるでしょう。社会では今後、設計時や購入時にバーチャルな方法による選択を迫られることが増えていき、リテール空間のデザインとソーシャルインタラクションに大改革が起こるでしょう。フルフィルメントやラストワンマイルの遂行、マーチャンダイジングと価格設定、労働力、および組織の透明性の向上は、カスタマーエクスペリエンスとカスタマーエンゲージメントを高い水準に維持するための主要な領域であるにもかかわらず、COVID-19によってこうした領域における課題の解決が難しくなっています。小売業界は将来、全面的に再構築されていくでしょう」。

新しい現実

アンゴリ氏はテクノロジーについて、バーチャルリアリティー(VR)に焦点を当てて次のように提唱します。「VRは小売業に、新しい大きな刺激を与えるでしょう。車のデザインにおいて、VRはフルサイズモデルを作成する必要性をすでに根底から覆しています。最新のデジタルテクノロジーを活用したVRによって、私たちは実際の車がどのように見えるかを正確に把握することができます。VRにより、買おうとしている車や服を自宅に居ながら“バーチャルで”確認できるようになるかもしれません。新車購入時のVRシステムと同じシステムを利用して、高級品も車で玄関口まで配達してくれるようになるでしょう。モーターショー、スポーツイベント、コンサートといったイベントも、すべて自宅からバーチャルで快適に楽しむことができるようになります」。

交通

モビリティーについて、アンゴリ氏は次のように述べます。「これも再設計する必要があります。個人所有の自家用車の台数が減るのと引き換えにカーシェアリングが増えていますが、パンデミック後はどうなるでしょうか? これについては自動車のデザイナーが検討すべきことであり、今後使用する材料も、次のドライバーが利用するまでの間にどれだけ簡単かつ迅速にクリーニングできるかによって選ぶ必要があります。さまざまな物の表面でのウイルスの生存期間がどれくらいあるのかわからないという不安感が、使用する材料の選択にも確実に影響するでしょう。デザインではさまざまなことを検討しますが、適切な材料を選ぶことで、ロックダウン緩和後に人々を『安心させる』こともできるのです」。

結論

アンゴリ氏は論文を総括するにあたり、現代建築のパイオニアであるヴァルター・グロピウスの言葉を引用しています。「私たちの基本理念は、デザインとは知的なものでも物質的なものでもなく、人生に欠かせないものであり、文明社会に住むすべての人に必要なものである、ということに尽きます」。

そのうえで、アンゴリ氏は次のように結論づけています。「この原則は今、かつてないほどに真髄を突いています。デザイナーは思い切った新しい世界を形作るうえで重要な役割を果たすことが可能であり、またそうあるべきなのです」。

 

この記事はDigital JournalのTim Sandleが執筆し、Industry Diveパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comにお願いします。

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