vol.08 特集テーマバッテリーソリューション ~熱マネジメント編~

バッテリーソリューション ~熱マネジメント編~

お問い合わせ

世界的なEV普及時代に、重要性を増す“熱マネジメント”

〜耐炎化繊維「ラスタン®」と、難燃の発泡エンプラ「サンフォース®BE」の事例〜

EVシフトが加速する今、ヨーロッパや中国など普及の進む地域から見えてきた課題があります。その一つが、熱マネジメントの重要性です。航続距離を延伸するためにバッテリーを最適な温度環境に保つ熱マネジメントは、EV開発当初から必須とされてきましたが、近年は難燃・耐熱・断熱による安全性の向上と環境負荷軽減の両立などが求められるようになってきました。旭化成には様々な高機能材料がありますが、中でも耐炎化繊維の「ラスタン®」と難燃の発泡ビーズ「サンフォース®」は、EVソリューションとして国内外から非常に期待が集まっています。本稿では、ラスタンについて旭化成アドバンス/繊維本部の関透に、サンフォースについてはモビリティ&インダストリアル事業本部の中堤淳介と月見里雅己に、それぞれの特徴的な機能や活用事例、今後広がる可能性などを聞きます。

旭化成の製品や活用方法に関するお問い合わせはこちらのフォームよりご連絡ください。

▲(左から)旭化成株式会社  モビリティ&インダストリアル事業本部 中堤淳介・月見里雅己、旭化成アドバンス株式会社  繊維本部 車両事業部 関透

事例01 ラスタン®

旭化成の「ラスタン」は、これまで主に防災安全関連や産業資材分野で活躍してきた耐炎化繊維です。今EVソリューションとして注目される理由は、どのようなところにあるのでしょうか?

最高レベルの難燃性で炎を当てても燃えない、やわらかな布

▲旭化成アドバンス株式会社 繊維本部 車両事業部 事業部長 関透

「ラスタンは、特殊なアクリル繊維の糸を200度から300度の空気中で焼くことにより、非常に燃えにくい機能が備わった耐炎化繊維です。ラスタンの糸を使った布は一見通常の繊維と一緒で、触り心地がやわらかく、しなやかで軽くてとても扱いやすいものです。

▲「ラスタン」のフェルトタイプ やわらかな触り心地で、薄くて軽い。

しかし非常に熱に強く(耐熱性)、空気中の酸素濃度では燃えないレベル(限界酸素指数[LOI値]50)の耐炎化機能があって、直接バーナーの炎を当てても、一定時間燃えることも溶けて穴が開くこともありません(下図参照)。さらに絶縁性があって、熱伝導率が低いという特性があります」

▲ラスタンの優れた耐熱性を実証する実験。空気中で直接バーナーの炎を当てても燃えることなく(左)、他素材と比べて溶融や収縮も起こらずに、原型を保ったまま酸化反応が進む。

耐熱性を実証する動画: https://youtu.be/pUvprLCPY5U

▲有機繊維布帛の中で、ラスタンのLOI値は50と非常に高く、LOI値20である空気中では不燃といえる。またこれは、一般的に自己消化性があると言われるLOI値26.5をはるかに上回る値である。

実は身近な暮らしの様々なところで、安全を支えている

「ラスタンにはこのような難燃性と耐熱性・断熱性、そして絶縁性や柔軟性に優れた特性を持っていることから、30年以上にわたって様々なところで使われてきました。例えば、エアコン・洗濯機・掃除機・IHクッキングヒーターといった家電のコンデンサーやハーネスなど火花が出るかもしれない場所の延焼防止対策として使用されています。鉄道車両には断熱・吸音材としてグラスウールが使われるのですが、チクチクして作業性があまり良くないため、ラスタンで包んで天井や側壁に詰め込んでいます。自動車では、エンジン周りの断熱材として活用されています」

▲暮らしの身近なところで、幅広く活用されてきたラスタン

EVではLiBの熱暴走・発火から人命を守ることに貢献できる可能性

「EVのバッテリーとして現在主流のLiB(リチウムイオン電池)は、過充電による熱暴走や衝突などの衝撃によって発火する可能性があり、EVの普及とともに課題となってきました。EVバッテリーの類焼防止対策は、LiB自体の安全規格により対応されて来ましたが、中国では外部からの衝撃課題なども含めた対策の必要性から法規制が始まりました。対策として鉱物系の板が使われているものがありますが、非常に軽くて柔軟性のあるラスタンを使っていただいた方が車両の軽量化につながり、EVの航続距離を伸ばすことにも貢献できる可能性があります。

EVソリューションとして初めにラスタンに関心を持ってくださったのは、ヨーロッパの自動車メーカーですね。現在はアメリカや中国、日本の国内自動車メーカーやTier1の電池メーカーとも様々なお話が進んでいて、ラスタンをセルの隙間に入れたり、複数のセルが入ったモジュール周りをカバーするなど、いくつかの使い方が検討されています」

異なる素材と合わせ、複合ソリューションで活用が広がる

「ラスタンは粘着加工もできるため、金属やプラスチックをはじめ様々な素材に貼って、機能を付加することができます。例えば(次章でご紹介する)サンフォースのボードや成形体に貼り合わせれば、ラスタンにはない剛性を加えることができ、またサンフォース単体にはない耐火性を付加することができます。こういった複合ソリューションの可能性も広げながら、EVの安全性向上や普及にラスタンが貢献できればと思います」

▲耐炎化繊維ラスタンを、難燃機能を持つ発泡体サンフォースに貼ったもの。ラスタンにはない剛性や衝撃吸収性などが加わる、複合ソリューションの例。

「ラスタン」について詳しくはhttps://asahi-kasei-mobility.com/products/lastan/

事例02 サンフォース®BE

本シリーズvol.03「航続距離延伸」でもピックアップした旭化成のサンフォースは、エンジニアリングプラスチック(エンプラ)の機能と発泡体の特性をあわせ持った、非常にユニークな高機能素材です。すでにEVへの実装も進んでいますが、今後ますます多様な使い方が期待されています。

発泡体でありながら難燃性・耐熱性があり、成形は自由自在!

▲旭化成株式会社  サンフォース事業推進部 課長代理 中堤淳介

中堤「『サンフォース』という名前は、旭化成の“旭”=Sunと、さらに力強く新しいものを開発していくという意味で“力”=Forceに由来しています。ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE)というエンプラを発泡させたビーズ状の素材で、空気をたくさん含んでいるため非常に軽く、断熱性や衝撃吸収性に優れています。身近にある発泡ビーズといえば発泡スチロールですが、サンフォースが発泡スチロールと大きく違うのは、燃えにくく、熱に強いというPPEエンプラの特性を持っていることです。

▲直径1ミリ〜2ミリほどの小さな粒を、金型に入れて熱を加えると、膨らみながら粒同士がくっついて様々な形の製品が出来上がる。

サンフォースには粒径が小さく非常に高い寸法精度があるので、型に合わせて自由自在に成形ができます。剛性もあるので消防用ヘルメットの中の緩衝材や、医療機器ではポータブルレントゲンのシャーシに使われています。EVでは主にバッテリー周辺の熱マネジメント部材としても提案が進んでいます」

電池を衝撃から守り、熱暴走や発火による類焼を防止・遅延できる

中堤「前章でもあったように、現在EVに使われているLiBには、過充電や衝撃による熱暴走と発火の恐れがあります。そのため、各国にてEVバッテリーの類焼防止対策の法規制が始まりました。電池は、車の走行中でなくても輸送中の衝撃でも熱暴走してしまいます。しかしサンフォースの部材で電池を囲っておけば、万一の場合でも燃え広がることを防いだり、遅らせたりすることができます。

▲サンフォースで作った電池のセルホルダーの一例。電池の形状や大きさに合わせて成形することができ、非常に軽い

またサンフォースで作ったこのようなセルホルダー(上写真)に電池セルを格納しておけば、EVの電池パック内で1個の電池に熱暴走が起きた時に他の電池へ燃え広がるのを防ぐことが可能です。衝撃吸収の役割もサンフォースは果たせるので、例えば車が横からぶつかってきた時に電池が壊れないように守ることもできます」

EVバッテリー周辺で、様々な熱マネジメントに貢献できる

月見里「電池の温度管理としては、例えば上部の電池は冷やしたいけれど下部は冷やしたくないという場合、『サンフォース』を断熱材として用いて隔離することで熱交換効率が上がります。外界が非常に寒い時には、熱い電池との温度差で結露ができて電池のショートに繋がることもありますが、サンフォースを電池の下に敷き詰めることで結露防止にもなります。

サンフォースは、熱マネジメントが得意なので、電池パックの部材としてバスバーカバー、セルホルダーや冷却板アンダースペーサー等のいろいろな用途の提案をしています。特にヨーロッパで早くから評価をいただき、一部のEVにはすでに搭載されています。お客様からのご要望はここ数年一気に増えていて、中国でも採用が広がってきました」

▲旭化成株式会社  サンフォース事業推進部 課長 月見里雅己

寸法精度と設計自由度の高さによって今までにないものを創り出す

月見里「断熱性があって、寸法精度の高いものが作れるサンフォースの特性を活かして、電池を適切な温度に保つために冷たい空気を電池周りに流す流路を作ることもできます。


▲薄肉成形と、寸法精度の高さを活かしたサンフォース成形の例。電池周りに冷却空気を送る流路(左)、立体パズル(右)。曲率の大きいところもきれいに形をとれる。

EVの状況として、バッテリーの設計やコンセプトはある程度合理化されてきましたが、まだ世の中で規格が固まっていない過程の段階です。電池の形も乾電池のようなものもあれば角形もありますし、自動車メーカーによって、電池パックの構造が異なるので、それによって熱マネジメントのソリューションも変わってきます。事故をきっかけに政府の方針が出てきたり、マーケットのトレンドもまだまだ変わっていくと思いますが、私たちとしてはつねに先を見ながら提案させていただいています。

お客様に何か困りごとがあったとき、サンフォースならこういう構想が持てます、というイメージをお伝えして、擦り合わせを重ねて製品を開発していきます。サンフォースはいろいろな設計ができるので、柔軟にお客様の課題解決に貢献していきたいですね。

マルチマテリアルの提案力も磨き、お客様のニーズに応えたい

中堤「今後さらにお客様のニーズに応えるためには、サンフォース単体のご提案だけでなく、様々な素材と一緒にサンフォースを使っていただく複合提案も大事だと思っています。前章のラスタンとの複合ソリューションをはじめ、旭化成は様々な素材やテクノロジーとの複合提案ができます。またお客様の状況によって、例えばすでにEVの電池周りに使われているアルミや他の樹脂などとも共存するような発想も必要だと思います。複数の素材を合わせて機能を付加する、マルチマテリアルとしての提案事例もさらに増やして、私たち自身スキルアップしていくことがお客様からは求められていると感じています」

▲耐熱性樹脂や金属部品のインサート成形の例。表皮材によって機械強度・美粧性・耐候性をサンフォースと組み合わせることで、更なる高機能化を実現することができる。

省資源の良さを活かし、サステナビリティへの貢献を高めたい

月見里「私はサンフォースの活用を、省資源の取り組みとしてさらに広げられたらいいなと思っています。10倍発泡のサンフォースは90%が空気です。使用する原料が少なくて済むのは発泡体の良いところです。さらには今後、自動車メーカーとサプライチェーン、お客様を繋ぐ資源回収の仕組みができて、循環できるような姿が理想だと思います」

世界で急速に進むEVシフトは、これまでのエンジン車からただ電気自動車に置き換わるのではなく、環境やエネルギーをはじめとする持続可能な社会の実現へと繋がる、新しい価値の創出でもあります。最適で最善なソリューションを探して次々と技術革新が求められる今、旭化成は「ラスタン」や「サンフォース」といった高機能素材によって、眼前の課題にお応えするだけでなく、これまでにない発想を引き出して、お客様と共に次世代のソリューションを実現してまいります。

「サンフォース」について詳しくは https://asahi-kasei-mobility.com/products/sunforce_bebh/

旭化成の製品や活用方法に関するお問い合わせはこちらのフォームよりご連絡ください。

この記事は2023年5月31日に公開しました。

この記事をシェアする

LinkedIn

メールマガジン

メールアドレスを登録していただくと、新着情報や
製品情報などが定期的に受け取ることができます

メールマガジン登録